■上市後の観察研究にも拡大へ
臨床試験の科学性や倫理性を担保するICH-GCPの刷新に向けた議論が始まっている。E6(R2)のさらなる改訂と、臨床試験の一般指針であるE8(R1)への改訂に動き出している。小宮山靖氏(ファイザーレギュラトリーポリシー部)は、2日に京都市で開催された日本臨床薬理学会学術総会で講演し、GCP刷新のゴールについて、「研究・データの質の管理技術が計画に基づく質の確保(クオリティ・バイ・デザイン)に向かわせようとしている」と指摘。臨床試験に関して、ミスや逸脱がないかを事後的にチェックする出口管理から、事後的検査を不要とするプロセス管理に移行する中、治験の入口段階となるプロセス管理を前提とした計画設計が品質管理の指針になると予想する。
ICH-GCPは1996年5月に日米欧で合意され、2016年11月に臨床試験の効率化が可能とする20年ぶりの改訂が行われた。臨床試験のデザインが多様化する中、それに対応した柔軟な指針になっていないとの批判もあり、米FDAが中心となり、GCPを大幅に見直す動きが進んでいる。
小宮山氏は、「E6(R2)の改訂はGCP刷新の序章に過ぎない」と指摘する。GCP刷新と従来のE6、E8ガイドラインと異なる点について、「GCPの範囲が臨床試験のみならず、上市後の観察研究まで拡張されることや、計画に基づく質の確保として“クオリティ・バイ・デザイン”が目標に据えられている」と述べた。
これまで試験データに問題があるかどうかを事後的にチェックする検査重点主義に基づく出口管理のモニタリングを実施していたが、E6(R2)の改訂によって、治験プロセスでリスクが高いと思われる工程で重点的な品質モニタリングを行う「リスクベースモニタリング」などを用いて、事後的な検査を不要とするためのプロセス管理への対応が始まったばかり。GCP刷新のクオリティ・バイ・デザインは、上流の計画段階でプロセス管理を前提とした質の良い治験計画を設計し、データの信頼性を確保していくという未知の領域だ。
小宮山氏は、「日本ではまだ検査重点主義に基づく品質管理を続けており、一部の医療機関ではプロセス管理を始めているが、さらにその先のクオリティ・バイ・デザインを本当に実装できるのかが課題」と話す。クオリティ・バイ・デザインの発想は生産分野で培ってきた品質管理手法だが、「医学研究での品質マネジメントシステム(QMS)の実装は学問的には手垢がついていない新しい挑戦になる」と、医学研究での品質管理の専門家が少ないことも問題視した。
日本製薬工業協会の医薬品評価委員会データサイエンス部会では近く、「臨床試験におけるQMS実装に向けた実践的な取り組み」として、現場で品質管理を行うためのケーススタディでの資料を発表する予定だ。
小宮山氏は、「臨床研究や治験の参加施設が自発的にQMSの実装を行えば世界をリードできる。日本の医療機関は、医療過誤の問題などでとっくの昔から品質マネジメントを実施しており、国のトップダウンと現場からのボトムアップのアプローチを組み合わせて品質管理を行えるのは日本だけで、既に下地がある」と強調する。