病前からの認知機能低下の推定値による確率モデル
大阪大学は6月29日、統合失調症患者の病前からの認知機能低下の推定値が、労働状態と関連することを示した研究結果を発表した。この研究は、同大大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授、福島大学人間発達文化学類の住吉チカ教授らによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Schizophrenia Research」に掲載された。
画像はリリースより
これまで、統合失調症患者ごとの個別の認知機能低下を測定する方法は確立されていなかった。研究グループは、病前の認知機能の推定値と現在の認知機能指標を用いて、個人ごとの病前からの認知機能の低下を推定する方法を見出し、さらに臨床現場で使えるような簡便な現在の認知機能の推定法を開発。これらを用いた患者ごとの個別化医療に貢献する認知機能障害の推定法の普及を、全国で講習を行って進めてきていた。しかし、病前からの認知機能低下の推定値を因子として組み込んだ労働状態の推定は行われておらず、また、実際に推定を行い、その結果を統合失調症患者やその家族にフィードバックする方法も提示されていなかった。
各患者が基準値以上働ける確率を推定する方法も提示
今回の研究は、労働状態と関連する要因について、病前からの認知機能低下の推定値を中心に検討し、有効な因子を用いて労働状態の推定を実践することを目的とした。まず、病前と比較して認知機能が保たれていると推定される群、病前から認知機能が低下していると推定される群、健常者群間において、さまざまな変数の群間比較を行い、労働状態と関連する要因として病前からの認知機能低下の推定値を含むいくつかの因子を見出した。統合失調症を含め、精神疾患患者の労働状態に関わる要因は今までにも研究されていたが、病前からの認知機能低下の推定値が労働状態に関連することが示されたのは初めて。
次に、病前からの認知機能低下の推定値を含むいくつかの労働状態に関連する因子を独立変数、労働状態を従属変数として、ロジスティック回帰分析を実施。労働状態は、1時間、10時間、20時間、30時間/週の基準を設け、基準以上・未満で二値化した。その結果、病前からの認知機能低下の推定値は、労働状態の推定に有効な変数であることを確認。ロジスティック回帰分析のモデルから得た推定式から、認知機能低下の推定値とともに有効だった因子(精神症状と社会機能)を用いて、各患者が基準値以上働ける確率についても推定する方法を提示した。
今回の研究で提示した労働状態についての推定法を用いることで、統合失調症患者やその家族が、患者の社会復帰に有用な情報を得ることができる。研究グループは「今後は、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・予防精神医学研究部の住吉太幹部長を中心に国内外に発信し、診療ガイドラインへの反映を行い、臨床現場に届くよう普及していくことが期待される」と述べている。
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