いまだ根治治療薬がない胸部大動脈瘤
東北大学は6月26日、胸部大動脈瘤の病因タンパク質の網羅的探索を行った結果、これまで胸部大動脈瘤との関連が全く示唆されていなかった新規病因タンパク質「SmgGDS」を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授、佐藤公雄准教授、野木正道医師の研究グループが、同大心臓血管外科学分野と共同で行ったもの。研究成果は、米国心臓協会(American Heart Association:AHA)の学会誌である「Circulation」誌の電子版に掲載された。
画像はリリースより
胸部大動脈瘤は、心臓に近い胸部の大動脈の血管の壁が薄くなり、こぶのように膨らんでしまう状態になる疾患。多くの場合、自覚症状のないまま病状が進行するため、大動脈瘤破裂による突然死の原因となっている。同疾患の原因については、組織の隙間を埋める結合組織のタンパク質の遺伝子異常であると、これまで指摘されてきた。
遺伝子疾患であるマルファン症候群などは、遺伝子異常によって大動脈を包んでいる筋細胞(大動脈平滑筋細胞)の形質が変わり、血管壁が薄くもろくなることにより動脈瘤が形成されると考えられているが、遺伝子疾患ではない一般的な胸部大動脈瘤の原因は、依然として不明なままである。また、現在の胸部大動脈に対する根治治療は外科的な人工血管置換術のみであり、内科的治療は薬剤で血圧をコントロールする以外にない。これらのことから、胸部大動脈瘤の予防法の確立や内科的な根治治療薬の開発が強く望まれている。
SmgGDSが胸部大動脈瘤を抑制、新規治療ターゲットに
研究グループは、東北大学病院循環器内科と心臓血管外科の共同で、臨床検体を用いた胸部大動脈瘤の病因遺伝子・病因タンパク質の網羅的な探索を行い、これまで胸部大動脈瘤との関連が全く示されていなかった新規病因タンパク質「SmgGDS」を発見。また、同研究では臨床検体を用いた細胞実験と遺伝子改変動物(SmgGDS欠損マウス)を用いた病態の詳細な検討によって、SmgGDSが胸部大動脈瘤の発症と進行に重要な役割を果たしていることを世界で初めて証明した。
さらに、SmgGDSは細胞内の特定のシグナル伝達経路を通して、大動脈平滑筋細胞の形質維持の役割を担い、胸部大動脈瘤を抑制していることを発見した。また、薬剤で誘導した胸部大動脈瘤形成のモデルマウスにSmgGDSを局所的に過剰産生させることにより、胸部大動脈瘤形成の抑制が可能であることも明らかになったという。
これらの研究の成果から、不明な点が多く残されている胸部大動脈瘤の新たな発症機序が明らかとなり、SmgGDSの新規治療ターゲットとしての可能性が示された。今後は、基礎研究から臨床応用へ発展させ、新規治療薬の開発につながることが期待されるという。
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