大腸がんなどの発がん予防効果も報告される低用量アスピリン
国立循環器病研究センターは6月17日、低用量アスピリン療法により、65歳未満の日本人2型糖尿病患者においてがんの発症が少なくなる可能性を示したと発表した。この研究は、奈良県立医科大学の斎藤能彦教授、国循の小川久雄理事長、兵庫医科大学の森本剛教授、熊本大学の副島弘文准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米糖尿病学会誌「Diabetes Care」に掲載されている。
近年、糖尿病とがんの関連が注目されている。糖尿病患者は一般の人に比べてがんの発症頻度が高くなることが報告されており、がんは日本人糖尿病患者の死因の第1位となっている。
低用量アスピリンは、従来心血管疾患予防のために使用される薬剤。近年は、大腸がんなどの発がん予防効果についても報告されている。しかし、これらの研究報告の多くは海外で実施されたもので、日本人とは人種や生活習慣が異なり、がんの発症頻度も異なるため、日本人糖尿病患者にそのまま適応することは難しいと考えられた。
日本人2型糖尿病患者2,536名を対象に10.7年間の追跡調査
そこで研究グループは、日本全国163施設の実地医家と協力して、2002年から「日本人2型糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患一次予防」に関する臨床研究(JPAD研究)を開始。同研究は、2008年以降も観察研究として追跡調査を継続し、2016年には10年間の低用量アスピリン療法の心血管疾患予防効果に関する研究報告(JPAD2研究)を行った。また、JPAD2研究では研究期間中に発症したがんについても調査を実施。そして今回、研究グループはJPAD2研究に参加した日本人2型糖尿病患者2,536名を対象に、低用量アスピリン療法の発がん抑制効果を検証する目的で研究を行った。
画像はリリースより
10.7年間の追跡調査において、研究参加者のうち318人でがんの発症を確認。内訳は、低用量アスピリン療法群で149人、非投与群169人で、低用量アスピリン療法による発がん抑制効果は認められなかった(ハザード比[HR]:0.92、95%信頼区間[CI]:0.73-1.14)。
また、がんの発症は加齢とともに増加することから、研究開始時の年齢を元に65歳以上、65歳未満に分けて解析した。その結果、65歳以上の対象者では低用量アスピリン療法の発がん抑制効果は認められなかったが(HR:0.98、95%CI:0.75-1.28)、65歳未満の対象者ではがんの発症が少なくなる可能性を示したという(HR:0.67、95%CI:0.44-0.99)。この結果は、性別や血糖コントロール(HbA1c)、喫煙歴、メトホルミンやスタチンの服用で調整した解析においても同様だったとしている。
今回の研究では、日本人2型糖尿病患者全体においては低用量アスピリン療法の発がん抑制効果は示されなかったが、対象を65歳未満に限定するとがんを抑制する可能性が示された。研究グループは「がんのハイリスク集団である日本人糖尿病患者において、低用量アスピリン療法が有効な選択肢となりうるか、今後の研究が期待される」と述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース