B型肝炎ウイルス感染後に形成されるcccDNA
金沢大学は6月22日、ヒトの細胞が持つ酵素「FEN1」が、B型肝炎ウイルスの複製に必須であるウイルスDNAの形成に関わることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系分子遺伝学の喜多村晃一講師、国立感染症研究所の脇田隆字所長、村松正道部長、渡士幸一主任研究官、長崎大学大学院頭頸部放射線学分野の中村卓教授らの共同研究によるもの。研究成果は、米科学雑誌「PLOS Pathogens」に掲載された。
画像はリリースより
B型肝炎ウイルスの持続感染者は日本国内で110~140万人と推定されている。また、B型肝炎ウイルスの持続感染は、肝硬変、肝がんへと進行していくことが懸念される。
このウイルスは細胞へ感染後に、cccDNAと呼ばれる環状二本鎖DNAを作る。感染細胞ではこのcccDNAからウイルスが産生されるが、ワクチンや既存の抗ウイルス薬ではcccDNAの除去は難しく、有効な治療法は現在のところ見つかっていない。また、その形成過程の分子メカニズムもほとんど未解明だった。
FEN1の機能低下に伴い、B型肝炎ウイルスcccDNA量が減少
研究グループは、cccDNAの前駆体DNAに特徴的な「フラップ構造」が存在することに着目。この構造を切断するタンパク質「FEN1」(フラップエンドヌクレアーゼ1)が、cccDNA形成に関わっているのではないかと考え、検討を行った。
まず、B型肝炎ウイルスを複製する培養肝細胞について、ゲノム編集などによってFEN1タンパク質の量を減少させる、あるいはFEN1阻害剤を用いて機能を抑制した。その結果、いずれの手法においてもFEN1の機能低下に伴い、B型肝炎ウイルスcccDNA量が減少した。これは細胞内のFEN1タンパク質がcccDNA形成に寄与していることを示しているという。
また、FENの量を少なくした細胞に、FEN1の酵素活性を欠失させた変異型を導入した結果、cccDNA量は回復しなかったことから、FEN1の酵素活性がcccDNA形成に関わることが示唆された。さらに、ヒト肝臓培養細胞にB型肝炎ウイルスを感染させ、FEN1阻害剤を添加したところ、ウイルス産生量の低下を確認。これはFEN1の酵素活性を阻害したことで、B型肝炎ウイルス感染後にウイルスを複製するcccDNA量が減少したためと考えられるという。
次に、cccDNAの前駆体DNAを細胞から抽出し、試験管内においてFEN1に加えて、DNAを伸長させるポリメラーゼ、DNA末端をつなげるリガーゼの 3つの酵素と反応させた。その結果、cccDNAが形成され、このcccDNAを細胞内に再び導入するとB型肝炎ウイルスが産生されたという。したがって、この反応により、試験管内でも実際のcccDNAと同等のものが作られたと考えられ、前駆体DNAのフラップ構造をFEN1が取り除いているという分子メカニズムが示唆されたとしている。
B型肝炎ウイルスは4つしか遺伝子を持たず、その複製には宿主細胞のタンパク質が利用されていることは以前から推定されていたが、今回の研究により、細胞のDNA修復因子であるFEN1タンパク質がそのひとつであることが初めて明らかになった。この成果について、研究グループは「FEN1と前駆体DNA(rcDNA)に対するFEN1の作用機序に注目することで、cccDNA形成を抑える新規の抗ウイルス薬開発につながることが期待される」と述べている。
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