■処方提案、地域連携に活用
宝塚市立病院薬剤部は、65歳以上の入院患者の持参薬や院内処方薬の中に、高齢者への投与に注意を要する薬が含まれているかどうかを自動的に抽出する部門システムを、関連企業と共同で開発した。その薬学的根拠となる情報を画面上ですぐに閲覧できるため、薬剤師は医師に薬物療法の適正化を提案しやすくなる。入院期間中の薬物療法変更の理由を詳しく記載した退院時薬剤情報提供書を容易に作成できる仕組みも設けた。多剤併用(ポリファーマシー)の適正化に向けて、どの薬剤師でも一定水準以上の業務を行えるほか、業務の効率化、地域との連携強化に役立つ。今後、多施設で活用してもらいたい考えだ。
薬剤部門内のシステムとしてトーショー、メディカルデータベースと共同で開発。今年4月から運用を開始した。システムには、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015、ビアーズ基準、添付文書の三つの情報源に記載された、高齢者への投与に注意を要する薬の情報を搭載。65歳以上の入院患者の持参薬や院内新規処方薬の中に該当薬が含まれていれば自動的にチェックし、システム画面の薬剤一覧表でマークを表示するため、注意すべき薬は一目瞭然。マークをクリックすれば、[1]「可能な限り使用しない」など具体的な注意点[2]そうすべき薬学的根拠[3]情報源の名称――など詳しい情報を閲覧できる。
同院の薬剤師は、このシステムを活用して見当をつける。その上で患者や家族と話をして副作用症状の有無などを聴き取ったり、電子カルテを閲覧したりして患者の背景を深く把握。薬の中止や減量、新規開始などを医師に提案する。その後も症状の変化を継続的に評価し、必要に応じて提案とフォローを繰り返す。こうして個々の患者に応じた薬物療法の適正化に取り組んでいる。
同院薬剤部長の吉岡睦展氏は「このシステムの活用によってもれなくチェックができ、見落としがなくなる。どのポイントに絞って評価すればいいのかが分かりやすくなり、質の高い薬物療法の評価を行える。どの薬剤師でも一定水準以上の業務を実施でき、若手薬剤師の教育にもつながる」と話す。
システムを活用すれば、退院時に発行する薬剤情報提供書の作成も容易になる。同提供書には、入院期間中に中止、減量、継続、新規に開始した薬の名称やその理由を詳しく記載。開業医や薬局薬剤師に送信し、退院後も地域全体で薬物療法の適正化が推進されるようにしている。
多忙な中、臨床現場の薬剤師は、薬の変更理由などを手作業で同提供書に記載することに時間をとられていたが、三つの情報源に記載された内容を簡単に転記できる仕組みをシステムに設けた。また、「自宅は段差が多く転倒リスクがあるため」など、服薬アドヒアランスに関連する患者側の様々な要因を定型文として設け、容易に入力できるようにした。薬学的根拠と患者個々の要因を組み合わせて、正しく早く薬の変更理由を記載できるようになった。
吉岡氏は「変更意図を開業医らに伝えたい場合に提供書を作成しているが、現場は忙しく、十分に発行できていなかった。システム構築によって短時間で容易に提供書を作成できるようになり、現在の発行枚数は運用前の約4倍、月間約90件に増えた。今後は月間300件の発行を目指したい」と語る。
同院は数年前から、地域の開業医や病院、高齢者施設、医師会や薬剤師会などとの連携を強め、高齢者の薬物療法の適正化に取り組んできた。開業医の意識も次第に変化し、「入院をきっかけに薬を整理してくれたら助かる、入院中に薬剤を調整した根拠をしっかり伝えてくれたら助かるという声を地域の開業医から聞くようになった」と吉岡氏は振り返る。
こうした活動をさらに推進するために今回、薬剤師の業務を支援するシステムを開発した。システムは今後、市販される予定。多くの施設で活用してもらいたい考えだ。