低出力パルス波超音波で認知機能低下抑制の可能性
東北大学は6月19日、低出力パルス波超音波がマウスのアルツハイマー型認知症モデルにおいて認知機能低下を抑制する可能性があることを見出し、この6月より世界で初めて臨床の現場で探索的医師主導治験を開始すると発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授、進藤智彦助教、江口久美子医師、同大学加齢医学研究所老年医学分野の荒井啓行教授らの研究グループによるもの。同治験は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)からの指導を受けて行われ、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的医療シーズ実用化研究事業において、課題名「認知症に対する経頭蓋超音波治療装置の開発」で支援を受けて実施される。
画像はリリースより
現在、アルツハイマー型認知症に対する治療の主流は、家族や介護者からの支援的ケアといわれており、内服薬としてはコリンエステラーゼ阻害薬やグルタミン酸拮抗薬が用いられる。これらは根本的な治療薬ではなく、神経伝達物質に作用する症状改善薬といわれている。この症状改善薬に対して、アルツハイマー型認知症を根本的に治療できる可能性をもった疾患修飾薬の開発が急務となっている。
軽度アルツハイマー型認知症を対象に2018年6月から開始
低出力パルス波超音波(low-intensity pulsed ultrasound:LIPUS)は、細胞・組織障害が非常に少ない低侵襲治療としてさまざまな分野で注目され始めている。研究グループは、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患において、超音波が血管内皮細胞表面の窪み構造(カベオラ)を伸展させることで、細胞膜表面の機械刺激受容体を刺激し、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現および血管新生を誘導することを報告。
また、LIPUSを全脳に照射すると、進行性の認知機能低下が抑制される可能性があることを、マウスを用いた2つの認知症モデルから見出した。アルツハイマー型認知症の動物モデルでは、その二大病理のひとつであるアミロイドβの蓄積を有意に減少させたという。この治療法は、物理刺激を用いた革新的なアプローチであり、薬物では通過しにくい血液脳関門の影響を全く受けることなく十分な治療効果を得ることができる。
これらの成果をもとに、研究グループは企業と連携して経頭蓋超音波治療装置を開発。2018年6月から、軽度アルツハイマー型認知症患者を対象として、プラセボ治療群を対照群とする単施設盲検無作為化比較試験(探索的医師主導治験)を東北大学病院で開始する。治療は3か月毎に行い、全観察期間は18か月。主な有効性評価項目は、認知機能試験(MMSE、ADAS-J cog、CDR/CDR-SB)と行動試験(NPI-Q、Zarit)で、安全性の評価として頭部MRI検査を実施する予定としている。
この治験の結果をもとに、将来的には検証的治験の実施、薬事承認申請を目指す。同治療法の有効性が認められれば、世界初のアルツハイマー型認知症に対する「疾患修飾療法」として、革新的な治療装置となることが期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース