視床の内側腹側核のマトリックス細胞が大脳皮質を活性化
筑波大学は6月18日、視床の内側腹側核のマトリックス細胞が大脳皮質を活性化し、覚醒を促進することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構の主任研究者である本城咲季子助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Nature communications」に掲載されている。
画像はリリースより
視床は、末梢の神経から受け取った感覚情報を、高次な情報処理が行われる大脳皮質に中継する役割を担っており、睡眠・覚醒の制御にも深い関わりがあると考えられてきた。また、部位特異的に切除することや薬剤を効かせることが難しく、各部位の特異的機能は不明だった。しかし、研究が進んだことで、視床を構成する部位や細胞の定義も変わり、現在では、視床の神経細胞は、大脳皮質の特定の領域に投射するコア細胞と大脳皮質に広範に投射するマトリックス細胞の2種類に分けられることがわかっている。
VMニューロンを抑制するとノンレム睡眠の量が増加
研究グループは、光遺伝学を用いて睡眠中のマウスの視床マトリックス細胞を選択的に活性化することで、睡眠覚醒への影響を検討し、睡眠覚醒サイクルにおける視床内側腹側核のマトリックス細胞(VMニューロン)の活動パターンを調べた。その結果、VMニューロンの発火頻度は覚醒時に最も高く、ノンレム睡眠時に覚醒時の20%程度と最も低く、レム睡眠時には覚醒時の75%程度まで回復することがわかった。さらに、睡眠から覚醒にうつりかわるタイミングで、いつVMニューロンが発火するのかを調べたところ、マウスが行動をはじめる直前に脳波に変化が起こり、さらにその数秒前にVMニューロンが発火していることが明らかになった。ノンレム睡眠からレム睡眠に移るときにも同様のパターンが観察されたことから、VMニューロンが大脳皮質を活性化していることが示唆されるという。
また、光照射によって神経活動を操作できる光遺伝学ツールを用いてVMニューロンを選択的に活性化したところ、ノンレム睡眠の状態にあったマウスが、多くの場合10秒以内に覚醒行動を開始。さらに、麻酔薬を投与することで徐波脳波の状態にさせたマウスのVMニューロンを活性化させたところ、大脳皮質の活動が活発化し、四肢の筋肉に動きが見られたという。
これら2つの実験結果から、VMニューロンが大脳皮質を活性化し、覚醒を促進していると考えられる。反対に、VMニューロンを抑制した場合は、大脳皮質の活動が抑制され睡眠が長く深くなることが予想されるという。実際に、特定の薬剤によって神経活動を操作できる薬理遺伝学ツールによってVMニューロンを抑制したところ、ノンレム睡眠の量が増加したとしている。
レム睡眠は、覚醒時と似た脳波を示しているにも関わらず、個体としては眠り続け、外部からの刺激をほとんど認識しないことから、「逆説的睡眠」と呼ばれている。光遺伝学を用いてレム睡眠中のVMニューロンを活性化させたところ、レム睡眠から覚醒状態への切り替わりは起こらなかった。同研究の解析結果を総合すると、覚醒時は視床が大脳皮質の活性に因果性を持つのに対し、その作用はノンレム睡眠で低下し、レム睡眠時には最も低くなっているということがわかるという。
今回の研究成果について、研究グループは「覚醒時における脳内メカニズムの理解を深めるだけでなく、将来的に意識障害や認知機能の回復のための治療法開発につながる可能性がある」と述べている。
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