複数の創薬標的に関する研究を実施中
東京大学先端科学技術研究センター(東大先端研)は6月13日、コンピュータ上で仮想的に設計・評価するIT創薬により、がんの原因となるタンパク質(標的タンパク質)の阻害活性を持ち、従来のがん治療薬に抵抗性を示すがんにも効果が期待できる新規低分子化合物を創出することに成功したと発表した。
この研究は、同センターと、富士通株式会社、興和株式会社によるもの。IT創薬の共同研究については、2011年6月に東大先端研と富士通で開始され、同年7月に興和が参画。以後、複数の創薬標的に関する研究を行っている。
今回の共同研究は、従来のがん治療薬に抵抗性を示すがんに対し、その原因となるタンパク質を創薬標的として選択し、2015年12月に開始。富士通は、IT創薬により阻害活性があると予想される低分子化合物を設計し、興和は低分子化合物の合成と実験による阻害活性測定を行った。東大先端研は、創薬標的に関する医学的見地に基づく情報を提供するという役割を担った。また、この共同研究期間中、富士通と株式会社富士通研究所は、IT創薬技術の改良を重ね、精度と性能を向上してきたという。
富士通が設計した低分子化合物を興和が合成
今回の共同研究において、富士通は、標的タンパク質の働きを抑える効果があると期待される化学構造を興和に提供。これは、医薬候補化合物設計技術と、今まで培ってきた創薬の知見を取り入れ、合成可能な低分子化合物の構造をコンピュータ上で設計し、高精度活性予測技術を改良したM2BAR法(エムスクエアードバー法)を用いて、低分子化合物と標的タンパク質の結合強度を計算して絞り込んだもの。これに、量子力学に基づく高精度な立体配座解析の結果も考慮に入れたという。
興和は、富士通が設計した低分子化合物を合成し、その中に目標とする阻害活性を示す化合物を確認。また、興和はこの化合物と化学構造が似ている低分子化合物を複数合成し、一連の化合物にも目標とする阻害活性を示すことを確認した。現在、興和はこれら化合物のX線結晶構造解析による複合体構造を検証中で、今後、同研究成果を創薬に結びつけるべく、今回の研究で得た低分子化合物を改良していく予定。
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・東京大学先端科学技術研究センター プレスリリース