リン酸化タンパク質群をSNIPPsと命名
筑波大学は6月14日、2つの「眠気モデル」マウスの脳内のリン酸化タンパク質を網羅的に比較解析することで、眠気の実体や眠りの機能に重要な役割をもつと見られる80種類のタンパク質を同定し、SNIPPsと命名したと発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構のZhiqiang Wang研究員、Qinghua Liu教授、船戸弘正客員教授、柳沢正史機構長/教授らが、St. Jude Children’s Research Hospital、北京生命科学研究所、University of Texas Southwestern Medical Center、東邦大学と共同研究で行ったもの。研究成果は、「Nature」のオンライン版で公開されている。
画像はリリースより
眠気は覚醒時間が長くなるにつれて蓄積していき、眠ることで消えていく。しかし、眠気をきたしている脳内では何が起こっているのか、その実体はわかっていない。これまで、その実体を明らかにしようと、断眠させたマウスを用いた研究が行われてきた。しかし、断眠した脳と自由に眠っていた脳を比較する従来の実験では、「起きていたこと」と「眠っていたこと」による差と、「眠い」「眠くない」による差とが原理的に区別できなかった。さらに、眠りたいマウスに刺激を与え続けることで覚醒を強いるため、マウスに強いストレスがかかることが避けられず、眠気とストレス反応とを区別することができなかった。このジレンマを解消するために、今回、研究グループは、新しい発想に基づく解析を試みることにした。
80のうち69がシナプス機能に重要なタンパク質
今回の研究では、睡眠要求を決めるメカニズムを解明するために、研究グループが2016年に報告したSleepy変異マウスを眠気モデルマウスのひとつとして採用した。Sleepy変異マウスは、昼夜の睡眠量が正常(野生型)マウスより大幅に増えているにも関わらず、野生型マウスより眠気が強いことがわかっている。また、Sleepy変異マウスは、SIK3と呼ばれるタンパク質リン酸化酵素の遺伝子変異をもっていることが知られている。
このSleepy変異マウスと、断眠させたマウスの2種類の眠気モデルマウスの脳内で共通した生化学的変化を網羅的に解析したところ、80種類のタンパク質でリン酸化が進行していることが判明。断眠時間が長くなるほど、眠気の程度に応じてリン酸化が進行していることから、このタンパク質群を睡眠要求指標リン酸化タンパク質SNIPPs(Sleep-Need-Index-Phosphoproteins)と命名した。また、80のSNIPPsのうち、69がシナプスの機能や構造に重要なタンパク質であることが判明。眠りの機能のひとつは、シナプス可塑性の維持であるという学説もあることから、SNIPPsは眠気の実体、すなわち眠りの調節と、眠りの機能の両者において重要な役割を担っている可能性が高いと考えられるとしている。
このような、眠気の分子的実体に関する網羅的研究は世界初の試みだという。研究グループは、「SNIPPsの発見をきっかけに、睡眠の恒常性維持から睡眠の持つ認知機能的意義まで幅広い問題の解明につながることが期待される」と述べている。
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・筑波大学 プレスリリース