他の循環器疾患に比べて研究が進んでいなかった心房細動
理化学研究所は6月12日、大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)を通じて、心房細動の疾患感受性座位を新たに70個同定したと発表した。この研究は、理研統合生命医科学研究センターの久保充明副センター長(研究当時)、統計解析研究チームの鎌谷洋一郎チームリーダー(研究当時)、ロー・シュー・キー客員研究員(研究当時)、循環器疾患研究チームの伊藤薫チームリーダー(研究当時)、東京医科歯科大学大学院の田中敏博教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、国際科学雑誌「Nature Genetics」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
心房細動は、重症な脳梗塞の原因となる重要な不整脈。心房細動の環境要因については、疫学研究で十分に検討されてきたが、遺伝学的要因については、2017年に理研を含む国際共同研究グループにより21個の感受性座位が発表され、合計30個の感受性座位が判明していた。しかし、他の循環器疾患である虚血性心疾患(心筋梗塞など)では100個以上の疾患感受性座位が同定されており、それに比べて研究が進んでいないのが現状であった。
感受性座位の遺伝子多型が作用する57個の遺伝子を同定
今回、研究グループは、これまで世界中で行われた50以上の心房細動研究を集めることにより、日本人を含む多人種の心房細動患者6万5,446人(欧米人84.2%、日本人12.5%、アフリカ系アメリカ人2%、ブラジル人とヒスパニック系1.3%)と対照者50万人に対してGWASを行い、多数の新しい心房細動の感受性座位を発見。その後、左心房のトランスクリプトーム解析を含むオミクス解析を行うことにより、これら感受性座位の遺伝子多型が作用する57個の遺伝子を同定した。これら遺伝子群は、心臓の分化形成や電気生理学的機能、心筋収縮・形態形成に関わるもので、心房細動発症の分子メカニズムの全体像を示しているという。
今回の研究を手掛かりとして、心房細動発症の詳細なメカニズムの解明、さらに、メカニズムに関連した分子ターゲットの発見が、疾患に効果的な創薬につながるとして、期待が寄せられている。なお、同研究で用いた日本人集団におけるジェノタイプデータは、科学技術振興機構バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)を通じて公開されている。
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・理化学研究所 プレスリリース