■臨床薬理試験研究会で議論
医薬品開発のグローバル化を背景に、ヒトの薬物動態を予測する生理学的薬物動態(PBPK)モデルを活用し、日本人を対象とした第I相試験の省略を目指す開発戦略に注目が集まっている。海外で第I相試験、ヒトでの有効性を検証するプルーフ・オブ・コンセプト試験を実施した後に、日本人の第I相試験を実施するのが通常だが、非臨床データや欧米の治験データで構築したPBPKモデルを用いることで、日本人の薬物動態(PK)を予測できるとの考え方だ。9日に都内で開催した臨床薬理試験研究会のパネルディスカッションでは、製薬企業の専門家が今後、PBPKモデルを用いた開発戦略がどうあるべきかを議論した。
武田PRA開発センターの田中真吾氏は、「国際共同治験により複数のリージョンにおける医薬品開発を志向する時代になり、日本という単一のリージョンのために試験を実施していくべきか」と疑問を投げかけ、「必要なのは日本人データではなく、欧米の試験データでカバーされていない日本人データ」と指摘。精度が高く予測可能なPBPKモデルを構築し、場合によっては医薬品医療機器総合機構に相談して、日本人第I相試験を省略する開発戦略を提案する。
ただ、第一三共の井上晋一氏は、「PBPKモデルは、日本人と白人の人種差を確認するために使うが、現状では臨床試験をスキップするのは難しく、予測性の向上と検証が必要」と慎重な考えを示した。「白人データをそのまま使用しているパラメータがまだ多数で、日本人におけるシステムデータに関し、大規模で信頼性の高いデータベースが求められる」と基盤整備を最優先に挙げた。
MSDの青木郁夫氏も、日本で実施する患者治験のデータ品質が海外に比べ、「精度が高い」と評価し、日本人第I相試験をグローバル試験に組み込むべきと推奨。より早期段階で国内第I相試験を実施し、グローバル試験に早期参入していく必要性に加え、国際共同治験の計画やデザインに関するICHガイドライン「E17」の改訂により、アジア共同治験が今後普及するのを念頭に、「日本人第I相試験によってアジアの核となるデータを取得する」との方向性にも期待した。
その上で、「これまではグローバル第III相試験に参画するためのチェックボックスでしかなかったが、やり方次第で日本人第I相試験の価値は変わる」との考えを示した。