遊離がん細胞が腹膜にがん組織を形成する可能性
杏林大学は6月7日、胃の中を蒸留水で洗浄することで、遊離したがん細胞を減少させることができるという研究結果を発表した。この研究は、同大医学部外科学教室の大木亜津子助教と、阿部展次教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gastric cancer」に掲載されている。
胃がんに対して胃を部分的に切除する場合に、口から入れた内視鏡と腹部から挿入した腹腔鏡を同時に使用する腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)や、内視鏡的胃全層切除術(EFTR)が行われることがある。これらは手術中に胃壁に穴を開けるために、胃の中と腹腔が交通する。このような手術の場合の危険性として、胃がんの存在する胃の中にはがん細胞が遊離している可能性が指摘されている。それらの遊離がん細胞が、腹腔内に漏れ出て、腹膜にがん組織を形成する可能性があることが議論されてきた。
そもそも、胃がんが存在する胃内で胃がん表面からがん細胞が遊離するのか、明らかではない。もし、そのようながん細胞の遊離が確認されたとしても胃内を適切な方法で洗浄することで遊離がん細胞を減少させ、この細胞に由来するがんの再発を防ぐことができると考えられる。そこで研究グループは、胃内洗浄によるがん細胞の遊離とこの細胞を減少させる適切な洗浄方法に関する研究を開始した。
等浸透圧液と比べ、低確率であった遊離がん細胞検出率
胃の中に存在する細胞を回収するための手法として、胃内を液体で洗浄・回収し、その中に存在する細胞を顕微鏡で検査する方法(細胞診)がある。今回はまず、細胞をできる限り壊さないように回収するために、等浸透圧液を使用。胃がんの患者に対して口から通常通りに内視鏡検査を行う際に胃内のがんに洗浄液を散布し、洗浄液は内視鏡の吸引機能により回収。この洗浄液に含まれる細胞を、細胞診を行い検討した。その結果、この洗浄液中の遊離がん細胞検出率は58%の症例で陽性だった。検出された遊離がん細胞は、細胞の形態が比較的良好に維持されていた。このような細胞が手術中に腹腔に漏れ出た場合、腹膜などに生着して播種(再発)を引き起こす可能性も否定できない。
次に、胃内を蒸留水(低浸透圧液)で洗浄することで、遊離がん細胞検出率を減少させることが可能であるか検討した。口から挿入した内視鏡から蒸留水(低浸透圧液)を胃がんに散布し、低等浸透圧液の場合と同様に、洗浄液を回収。この低浸透圧洗浄液を細胞診により検討すると、遊離がん細胞検出率は6%の症例で陽性であり、等浸透圧液と比較して低い確率だった。また、検出された遊離がん細胞も、破裂・崩壊していた。これらの細胞には生着や増殖はできないと考えられるという。
これらの結果から、蒸留水によって破裂・崩壊した遊離がん細胞が腹膜などに生着する能力を失っているかは別の研究が必要で、この研究結果のみからでは断定できないため、さらに検討を続けていく必要がある、と研究グループは述べている。
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・杏林大学 医学部 研究成果