県レベルの給食実施率と翌年の栄養状態の指標の関連を調査
東京大学は6月7日、政府統計の公開データから前年の栄養状態の指標、県・年齢・観測年などを考慮した上で、前年の県レベルの給食実施率と翌年の栄養状態の指標の関連を調査、その結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科公衆衛生学の宮脇敦士博士課程大学院生、李廷秀特任准教授、小林廉毅教授の研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Public Health」に掲載されている。
画像はリリースより
思春期の肥満は、多くの先進国や途上国でも、ここ数十年増加し続けている。思春期の過体重・肥満は将来の肥満、生活習慣病、さらには死亡率にも影響することが指摘され、その頻度の多さと長期にわたる健康影響のため、社会的な損失も大きいとされており、思春期の肥満を予防することは、成人の肥満や肥満関連疾患の予防にとって有効なアプローチと言われている。肥満率が歴史的に低い日本では、以前から給食が肥満の防止に役立っているのではないかといわれてきたが、明確なエビデンスとして示されていなかった。
給食実施率の10%増加で、肥満の男子の割合が0.23%低下
研究では、中学校での給食の実施が日本で過去10年間に拡大したことを踏まえて、給食が思春期の子供の肥満に及ぼす影響を調査した。まず、政府統計の公開データから「2006~2015年の都道府県レベルの給食実施率」および「県レベルの栄養状態の指標(過体重・肥満・やせの生徒の割合、平均身長、平均体重)」を性・年齢別に抽出。パネルデータ分析の手法を用い、前年の栄養状態の指標、県・年齢・観測年などを考慮した上で、前年の県レベルの給食実施率と翌年の栄養状態の指標の関連を調べた。
解析の結果、県レベルの給食実施率が10%増加すると、翌年の過体重の男子の割合は0.37%(95%信頼区間0.18-0.56)、肥満の男子の割合は0.23%(同0.10-0.37)低下していた。一方で、女子については、過体重・肥満を減らす傾向が見られたものの、統計学的に有意な結果ではなかった。また、やせの割合や県レベルの平均体重、平均身長については、統計学的に有意な効果は認められなかった。
今回の研究結果から、少なくとも男子においては、日本の給食プログラムが、思春期の過体重・肥満を減らす効果があることがわかった。思春期の肥満を集団として減らすという観点で、我が国の中学校における給食実施が効果的であることを示しており、学校給食に関する政策の重要な資料になると考えられる。また、先進国のみならず、途上国でも思春期の肥満の増加は重大な問題となっているため、学校給食プログラムを介した適切な栄養基準に基づいた食事の提供は、グローバルな視点からも、思春期の肥満を減らす有効な施策のひとつと考えられる、と研究グループは述べている。
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