1細胞から核RNAと細胞質RNAに分離
理化学研究所は6月6日、1つの細胞から核RNAと細胞質RNAを分画して、それぞれの遺伝子発現を解析できるマイクロ流体技術を基盤とする「1細胞RNA分画解読法(SINC-seq法)」を開発したと発表した。この研究は、理研開拓研究本部新宅マイクロ流体工学理研白眉研究チームの新宅博文理研白眉研究チームリーダー、マハメッド・ナディ・アブデルモエズ研修生、東京大学大学院理学系研究科の小口祐伴特任助教、上村想太郎教授、京都大学大学院医学研究科飯田慶特定助教らの共同研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Genome Biology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
近年、細胞の多様性を理解するために「1細胞RNA-seq法」が用いられている。RNAは核内で発現した後、細胞質に移動してタンパク質に翻訳されるまでにさまざまな修飾を受けるが、これまで、1細胞から核RNAと細胞質RNAに分離して、網羅的に遺伝子発現を解析する技術はなかった。
遺伝子治療や創薬、微生物産業などへの応用展開に期待
共同研究グループは、マイクロ流路における電場と流れを制御して、1細胞から核RNAと細胞質RNAを分離して並列に解読解析するSINC-seq法を開発。そして、同手法を用いて1つの細胞内のRNAの局在や遺伝子発現の相関を解析できることを実証した。さらに、これらが、細胞周期やRNAスプライシングなど生命機能と密接に関わっていることが示されたという。
従来の1細胞RNA-seq法に加え、今回開発したSINC-seq法を利用することで、核と細胞質間でのRNA輸送を含む遺伝子発現の転写後制御の理解が進み、将来的には、それらの知見をもとに遺伝子発現を効果的に制御することで、遺伝子治療や創薬、微生物産業などへ応用展開されることが期待される。また、同技術による分離対象の必要要件は、溶液中で電荷を持つことだけであるため、細胞内のRNA以外の分子や細胞内小器官の分離・分析技術の基盤となる可能性がある、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・理化学研究所 プレスリリース