■製薬業界も呼応、透明性向上へ
臨床試験の公正さや再現性を確保するため、匿名化した個別の被験者データを共有しようとする動きが世界的に加速している。国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)は、臨床試験の質と報告の健全性を確保するため、被験者データの共有を求める声明を発表し、7月1日から医学雑誌が臨床試験論文を受け付けるには、ICMJEの要件を満たす必要があると勧告。来年1月以降に被験者登録を開始する臨床試験については、登録にデータ共有計画を含めなければならないとした。製薬業界もこの動きに呼応し、1月に国際製薬団体連合会(IFPMA)は責任ある臨床試験データ共有に関する原則を公表した。研究不正への批判が強まる中、データの共有化は第三者によるデータの再解析につながると見られ、臨床試験の透明性向上が一層期待されそうだ。
ICMJEは、臨床試験に参加する被験者がリスクにさらされているとし、介入を伴う臨床試験で作られたデータを共有する倫理的義務があるとの考えから、2016年1月には個々の被験者の標準化されたデータを共有できる環境作りの提言を公表していた。
今回の声明では、7月1日からICMJEの医学雑誌に臨床試験の結果を投稿する場合、ICMJEが求めるデータ共有の要件を満たさなければならないと勧告。来年1月以降に被験者登録を開始する臨床試験については、臨床試験登録の計画にデータ共有の要件を含めなければならないと求めたのである。
具体的には、▽非特定化された個別被験者データが共有されるかどうか▽特にどのデータが共有されるのか▽研究計画書等その他の関連文書が利用可能かどうか▽いつデータが利用でき、いつまで利用できるのか▽どのような仕組みでデータが共有されるのか――など7項目を含める必要があるとした。
ICMJEはこれらの要件について、「データ共有を義務づけるものではない」としつつ、研究者に対して、医学雑誌の編集上の判断をする上で、データ共有を考慮する可能性があることを認識すべきと勧告。基本的には、匿名化された被験者データを共有することになる。
これまでICMJEは、臨床試験の登録、結果の公表といった流れを主導してきており、データ共有はその延長線上にあるステップと位置づける。まだデータ共有者の学術的な信用やデータの要求手順の透明化、データ保存など解決すべき問題は残されているが、臨床試験の公正さの確保を目指したデータ共有の動きは大きく前進しそうだ。
製薬業界もICMJEの声明に呼応するように、IFPMAが1月に責任ある臨床試験データ共有に関する原則を発表した。研究者と共同で臨床試験の結果を公表し、被験者募集時や臨床試験終了後、承認後、治験中止時には公式ウェブサイトでその情報を公開すると明記。共通指針としてこの原則を適用し、臨床試験の全てのサイクルを透明化すると表明した。
具体的には、資格要件を満たした研究者から求められた場合は、米国と欧州の当局に承認された医薬品、適応症の被験者レベルでの臨床試験データを公開することを宣言。承認申請していない医薬品は、いずれかの国で審査中の資料の一部でないこと等を条件に、臨床試験データと治験プロトコールの公開を検討することなどを表明している。
公開するデータは全て匿名化し、個人情報の保護を明記。データを求める研究者に対しては、研究課題の正当性や資格要件を証明する研究企画書の提出が必要とし、データにアクセスを許可された場合、その分析結果を公表することが期待されるとしている。
まだ日本ではあまり認識されていないデータ共有の動きだが、この世界的な流れは第三者によるデータ再解析への道を開くことになる。今後も多くの課題を解決する必要があるものの、産学がタッグを組む形で一層データ共有の動きが加速することが予想される。