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RWDで新時代の幕開け-製薬企業が統括部門創設

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2018年06月06日 AM10:00


■各部署での利活用を広げる

製薬企業が電子カルテやレセプトなどのリアルワールドデータ(:実臨床データ)を利活用し、医薬品の価値検証や事業の意思決定を行う新たな時代が幕を開けた。4月に製造販売後調査(PMS)に関するGPSP省令が改正され、医薬品医療機器総合機構による副作用データベース(DB)「MID-NET」の運用が始まり、PMSでDB研究も可能になった。外資系企業では、医薬品の安全性監視業務だけではなく、臨床開発やメディカルアフェアーズなど各部門でRWDの活用を推進する統括部署や、RWDから医薬品の価値を実証し、規制当局と薬価の交渉を行う医薬品アクセスに特化した部署を設立する動きが相次いでいる。ただ、グローバルで豊富な経験を持つ外資系製薬が先行する一方、国内製薬の後れが顕著になっている。

■実臨床で医薬品の価値実証‐薬価交渉や戦略策定に利用

製薬企業を取り巻く事業環境が変化し、実臨床のRWDから創出したエビデンスを戦略的に活用する時代に入った。治験データでは収集できない情報について、医療機関で集積した電子カルテやレセプトなどの医療情報や、患者が装着したウェアラブル機器から直接収集した血圧や脈拍などの連続的なデータ、電子患者日誌など患者の主観的評価データを用いて、医薬品の真の価値を検証する。

実臨床で取得したエビデンスは、研究部門では基礎から臨床への橋渡し研究、開発部門では治験の対象患者や実施医療機関の選定、安全性部門では新薬の安全性監視、メディカルアフェアーズ部門では治療実態や患者ニーズの可視化、営業・マーケティング部門では医療機関に対する情報提供の質向上と、各部門で様々な活用が可能になる。製薬各社は、RWDを活用していくために必要に応じて外部から医療DBを購入し、全社的に情報の共有化を図ると共に、医薬品の価値に基づく薬価や保険償還の根拠となるデータの構築を目的に新組織を設立した。

グローバルでの豊富な経験を強みに、外資系製薬企業が国内製薬企業より先行している。ファイザーは、昨年12月にRWDから医薬品の価値を数値化することを目指した「コーポレートアフェアーズ・ヘルスアンドバリュー本部」を設立した。米ファイザー本社がグローバルで保有する全ての医療DBをファイザー日本法人が利用でき、日本法人が購入した医療DBもファイザーの海外法人と共有できる仕組みを整えた。

また、リスクベネフィットや医療経済的な観点から薬剤の最適使用ガイドラインを策定したり、上市医薬品の費用対効果評価を行い、医薬品の価値を検証する役割も担う。当局が医薬品の薬価を決める際に、企業側から実臨床データで検証されたエビデンスを提供していく。

MSDも2008年から、実臨床で医薬品の処方実態把握や、医薬品の価値に基づく最大化を他社に先駆けて進めてきた。15年にはマーケットアクセス部門として、科学的なエビデンスに見合った医薬品の薬価を維持することや、ワクチンの定期接種化などアクセス改善に向けた政策の意思決定につなげるためのデータ構築を目指している。

親会社の米メルクは14年に、データに基づく企業戦略の意思決定を推進する目的から「センター・オブザベーショナル・アンド・リアルワールドエビデンス」(COA)を立ち上げ、日本のマーケットアクセス部門もCOAと緊密な連携を図っている。従来はメルクが策定した医薬品開発・上市後の戦略を日本市場でもそのまま踏襲していたが、国際共同治験により医薬品の世界同時開発が進展したことから、グローバルの戦略策定に日本のマーケットアクセス部門も関与。開発の早期段階からメルクと歩調を合わせ、日本市場での新薬開発や上市後の価値最大化に向けた戦略に結びつける。

ノバルティスファーマも昨年8月、実臨床でのエビデンス創出に特化したグローバル組織「センター・オブ・エクセレンス」を日本でも立ち上げ、スイス本社に追随した。これまでも部門によってはRWDを活用する取り組みは行われていたが、全社的に管理する体制に一新。開発やメディカルアフェアーズなど各部門に在籍する約20人がタスクフォースという形で参加し、医療DB研究を計画的に実施していくための基盤を構築するほか、各部門の業務に生かすためのコンサルティング機能を保持し、エビデンス創出を目指している。

中外製薬は昨年4月、データの利活用から製薬企業の創薬、臨床開発、上市後までの事業活動の質を高める「科学技術情報部」を立ち上げ、医薬安全性本部の中に多様な手法を用いて医薬品の安全性を科学的に検証する「安全性リアルワールドデータサイエンス部」を創設した。GPSP省令の改正により、PMSでDB研究が認められるようになったが、副作用のリスク監視が厳格に求められる抗癌剤の売上トップ企業として、副作用の徴候となる安全性シグナルを幅広く検出できる手法を追求し、最適なアプローチを検討したい考え。

日本イーライリリーは12年から実臨床エビデンスの創出に特化した組織を運営しており、現在6人が所属している。開発から市販後までの意思決定をより良くするためのサポートを行っている。

今年は、医薬品を投与した患者の観察研究や電子カルテ、レセプトなど医療機関で集積した医療情報の2次利用を実施しており、国内ではトップクラスとなる約40本の非介入型研究を予定している。

■日本は海外から周回遅れ‐医療DBと人材が課題

日本で製薬企業によるRWDの利活用は始まったばかりで、研究成果の論文化も一部に限られる。充実した医療情報インフラを背景に、市販後エビデンス創出に多くの成功事例を持つ海外に比べると、日本の現在地は「周回遅れ」との厳しい指摘もある。

国の取り組みが遅れているため、企業が扱える医療DBが少ないのが課題だ。国民皆保険制度のもと、世界的に見ても医療ビッグデータを構築しやすい環境にある日本だが、地の利を生かせていない。

4月に運用を開始した「MID-NET」も、導入されたことは歓迎されているが、データ量は10拠点23病院の約400万症例と十分ではない。解析結果に偏りが出てしまうリスクや、各社がそれぞれの切り口で研究を行ったとしても、似たような研究成果しか生み出せない可能性もある。データ利用の申請手続も非常に煩雑という声が強い。

人材も喫緊の課題だ。複数の医療DBから研究の目的に適したDBを選択するにあたって、集積されている情報の内容や質を吟味できる人材が必要になるが、製薬企業でこうした専門性は圧倒的に不足している。また、研究のアイデアや実施手法を考案でき、そこで得たデータを解析する専門家も枯渇している。RWDからエビデンスを創出していく体制やプロセスで海外とは大きな差があるのが現状だ。

専門家を揃えるだけではなく、従業員に対する教育も並行して進めていかなくてはならない。

例えば、RWDから医薬品の新規エビデンスを創出した場合に、医療従事者に対し、研究成果をしっかりと伝えられるMRの育成など、エビデンスを創る人材だけではなく、医療従事者や患者に情報を届けていく人材を含め、会社全体で底上げしていく必要がありそうだ。

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