世界初の低分子アクアポリン4機能促進化合物
新潟大学は6月4日、世界初の低分子アクアポリン4機能促進化合物「TGN-073」の開発に成功し、この化合物を投与することによって、脳に蓄積する老廃物を排出する働きをするための、“脳の水はけ”を改善することをMRIにより証明した。この研究は、同大脳研究所統合脳機能研究センターの五十嵐博中教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neuroreport」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
脳の約80%は水から成っており、多くの機能が水の動きや代謝で支えられている。脳における水の重要な機能のひとつとして、脳の活動で生じた脳内の老廃物を脳の外に排出するということがある。一方、脳の疾患には老化や遺伝子的な背景に伴い、脳内に蓄積した老廃物が原因で起こると考えられるアルツハイマー病やパーキンソン病などがあるが、この老廃物の排出をターゲットとした治療法や薬剤の開発は進んでいない。その理由として、生体でありのままに水の動きを見る方法がなかったということが挙げられる。
アルツハイマー病などの新たな治療選択肢として期待
同研究センターは、脳における水の動きの評価法開発と水チャンネルタンパクであるアクアポリン4の働きの解明を研究プロジェクトとして進めており、脳内の水分子動態を生きたまま可視化するMRI撮像法「JJVCPE法」を開発。アクアポリン4欠失遺伝子改変マウスおよびヒトアルツハイマー病モデルマウスにおいて、脳内の水の動きが滞り、アルツハイマー病の原因のひとつと考えられている脳の「ゴミ」である異常タンパク・アミロイドβの蓄積に関わっていることを解明した。さらに、MRIで開発された手法をポジトロンCT(PET)に応用し、ヒトのアルツハイマー病症例においても脳脊髄液の排出不全が認められることを明らかにしたという。
今回、これらの知見を治療に活かすために、アクアポリン4の機能を促進させる薬剤の開発に着手した結果、世界初の低分子アクアポリン4機能促進化合物「TGN-073」の開発に成功。この化合物を投与することにより、生体マウス脳の“水はけ”が改善されることを、JJVCPE法により証明した。
今回の薬剤候補化合物の開発は、脳内の水の動きが滞ることにより生じると考えられるアルツハイマー病、パーキンソン病、脳浮腫などの治療に新たな選択肢を与えるもの。研究グループは今後、開発した化合物の各種脳疾患に対する効果を検証していきたいとしている。
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