インターネット健常者登録システムIROOPの研究から
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は6月4日、認知症の発症予防を目指したインターネット健常者登録システムIROOP(R)(アイループ)に関する研究から、認知機能の変化に影響している因子について解明することに成功したと発表した。研究成果は、米科学誌「PLOS ONE」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
認知症、とくにアルツハイマー病(AD)に対する対策が急がれているが、根治薬の開発には至っていない。現時点でAD治療薬の開発・臨床治験の進捗は十分とは言えず、そのため円滑な患者登録の促進も必要とされていた。すなわち、今後、前臨床期、軽度認知症害(MCI)および早期ADを対象とした臨床試験を効率的に進めるためにも大規模な効率性の高いリクルート方法の確立が求められている。
また、AD発症リスクは生活習慣病の予防や生活習慣の是正によって軽減できる可能性があることが分かっていた。根治薬の開発が待たれる現在では、AD発症リスクをもつ認知機能正常者の登録システムを整備する重要性が言われ、それと同時に将来ADに移行するリスク因子探索が急務となっていた。
身体的痛みの除去や生活習慣病への介入も認知症予防に
そこで今回の研究では、日本医療研究開発機構(AMED)の認知症研究開発事業の支援により国立長寿医療研究センターなどとともに2016年に運用開始した「IROOP」に登録されたデータから認知機能へ関連している因子および半年経過後の認知機能の変化に影響している因子を探ることにしたという。2017年8月15日までに全ての初回アンケート項目への回答と電話による10単語記憶検査(あたまの健康チェック)を完了した1,038名(平均年齢59.0±10.4歳、男性400名、女性638名)と、初回アンケート回答から半年経過後の定期アンケートと、2回目の10単語記憶検査を終了した353名(平均年齢60.2±10.0歳、男性139名、女性214名)のデータを解析対象とした。
その結果、風呂に入る、洋服を着ることなどの日常生活活動が低下すること、抑うつ、がん・糖尿病の既往、慢性的な痛みの有無、および聴力損失等が認知症の危険因子として抽出された。このことから身体活動の低下や認知機能の低下を防ぐために、家庭外の社会的活動への参加や気分低下の防止、さらには身体的な痛みの除去や生活習慣病への介入が認知症予防になることが明らかになったという。
同システムは半年毎のアンケートと認知機能検査を無料で日本国民に提供している。今後、さらに経時的なデータの解析を進めていくことにより、認知症予防に貢献できると期待される。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース