追跡研究「吹田研究」のデータより
国立循環器病研究センターは6月1日、大阪府吹田市民を対象とした追跡研究「吹田研究」のデータから、全頚動脈のうち循環器病発症リスクを予測しやすい測定部位を決め、それを用いて頚動脈プラーク進展が循環器病発症リスクの要因となることを世界で初めて示した研究結果を発表した。この研究は、国循病院予防健診部の小久保喜弘医長らの研究グループによるもの。研究成果は、米国心臓協会の専門誌「Journal of American Heart Association」に掲載された。
画像はリリースより
頚動脈の血管壁は、内側から内膜・中膜・外膜で構成されている。動脈硬化の程度を画像で確認することを目的とした頚動脈エコー検査では、このうち内膜と中膜の複合体の厚さ(intima-media thickness:IMT)を測定する。
一般的には全頚動脈のうち計測しやすい総頚動脈のIMT≧1.1mmで、動脈硬化が進展しているといわれている。しかし、どのように測定すると脳卒中や虚血性心疾患といった循環器病の発症リスクを正確に予測できるかについては、一定の見解が示されていなかった。また、IMT値が徐々に進展(肥厚)した場合の循環器病発症リスクを追跡したコホート研究もこれまでなかった。
総頚動脈の最大値の測定が循環器病発症リスク診断に有用
国循は1989年より吹田研究を実施している。研究グループは、この吹田研究で1994年4月~2001年8月に最初に頚部超音波検査(頚部エコー)を実施したうち、追跡可能な4,724名を対象に研究を実施した。総頚動脈と分岐部の境界より10mm心臓側の、皮膚側(近位壁)と体の内側(遠位壁)のIMT値を左右両側(合計4か所)で計測し、平均値を算出(平均IMT値)。また、総頚動脈および頚動脈全体の測定可能部位の最大値(Max-CIMTとMax-IMT)も計測し、追跡開始時および追跡期間中の循環器病発症の関係を調査。初回検査時の各種IMTを4等分に分け(四分位)、循環器病(脳卒中および虚血性心疾患)発症との関係を解析した。
その結果、平均12.7年の追跡で、脳卒中の発症は221人、虚血性心疾患の発症は154人だった。平均IMT値>0.95mm、Max-CIMT>0.95mm、Max-IMT>1.2mmで循環器病発症が有意に高いことが明らかになった。吹田リスクスコアに各種IMT値を加えた結果、平均IMT値では有意差がなかったものの、Max-CIMT値で6%、Max-IMT値で5.9%、予測能を改善することができたとしている(純再分類改善度[NRI, Net reclassification index])。
また、ベースライン時に頚動脈プラークを有さない追跡可能な2,722人について2年ごとにIMT測定を行い、2005年3月まで追跡を行った結果、追跡期間中に193人がMax-CIMT>1.1mm、153人がMax-IMT>1.7mmとなり、それ以降69人が脳卒中を、43人が虚血性心疾患を発症した(追跡期間平均8.7年)。観察期間中にMax-CIMT>1.1mmとなった群は循環器病・脳卒中・虚血性心疾患のリスクが2倍近くになったものの、Max-IMT>1.7mmとなった群では有意な循環器病発症リスクは認められなかった。さらに、Max-CIMTが5年間で1mm肥厚することで循環器病発症リスクは3倍近くになるが、Max-IMTの肥厚については循環器病発症リスクとは言えなかったという。
以上の結果から、両側の総頚動脈のIMT測定で最大IMT>1.1mmが循環器病発症リスク予測に有効で、Max-CIMT>1.1mmをプラークと定義すると、初回測定時にプラークがなくてもその後プラークができた場合、その後の循環器病発症リスクが高まることが示されたとしている。
今回の研究により、頚動脈エコー、とくに総頚動脈の最大値を測定することが循環器病発症リスク診断に有用であることが明らかになった。今後は、追跡中にMax-CIMT>1.1mmとなった例の集積および解析を行い、IMT肥厚の要因を検証することで頚動脈硬化症のリスクスコアの開発を目指していきたいとしている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース