キラーT細胞を活性化させるヘルパーT細胞
京都大学は6月4日、ヒトのiPS細胞から作製したT細胞の遺伝子発現を解析してその性質を明らかにするとともに、遺伝子の導入や培養条件の工夫によって、iPS細胞由来T細胞に、他の免疫細胞の機能を高めるヘルパーT細胞様の機能を獲得させることに成功したと発表した。この研究は、京都大学 iPS 細胞研究所(CiRA)増殖分化機構研究部門・名古屋大学大学院医学系研究科 臨床医学領域 病態内科学 血液・腫瘍内科学の上田格弘元大学院生、CiRA同部門の金子新准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Stem Cell Reports」でオンライン公開されている。
画像はリリースより
樹状細胞ががん細胞を取り込むと、がん細胞の抗原をヘルパーT細胞に提示し、ヘルパーT 細胞が活性化する。活性化したヘルパーT細胞は樹状細胞を活性化させ、その活性化した樹状細胞がキラーT細胞に抗原を提示することで、がん細胞を攻撃するキラーT細胞が増殖する。
1種類のキラーT細胞は1つのがん細胞抗原しか認識できないため、がん細胞が細胞表面の抗原を改変してキラーT細胞の攻撃から逃れることがある。一方、ヘルパーT細胞はさまざまな種類のキラーT細胞を活性化させるため、がん細胞が攻撃から逃れるのを防ぐのに有用と考えられ、再生免疫細胞を用いたがん治療のひとつのアプローチとして効果的であると考えられている。
ヘルパーT細胞の働きに重要なCD4遺伝子を導入
研究グループはこれまでに、弱ったキラーT細胞をiPS細胞へと初期化し、再びキラーT細胞へと分化させることで、元気に若返ったキラーT細胞を作製することに成功している。今回の研究は、この基盤技術を応用して、iPS細胞から分化させたT細胞にヘルパーT細胞様の機能をもたせることを目的として行われた。
その結果、ヘルパーT細胞由来のiPS細胞から分化させたT細胞(iPS-T細胞)は、ヘルパーT細胞とは異なる遺伝子発現パターンを示した。その後、iPS-T細胞にヘルパーT細胞の働きに重要なCD4遺伝子を導入して得られた細胞から、ヘルパーT細胞の働きに重要なタンパク質を多く発現している細胞群を選出。試験管内とマウスを用いた実験で、選び出した細胞群がヘルパーT細胞と同様に樹状細胞を介してキラーT細胞を活性化することを確認したという。
これらの成果により、今後、再生免疫細胞を移植することで免疫機能を高め、がんの治療を図る免疫療法への応用が期待される、と研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果