国内18施設、1,192の脳梗塞/TIA患者が対象
国立循環器病研究センターは6月1日、国内18施設の合同研究チームによる前向き観察研究「SAMURAI-NVAF研究」における、2年間の脳梗塞患者追跡の結果を発表した。この研究は、国循の豊田一則副院長(脳血管部門長)、同脳血管内科の吉村壮平医師、古賀政利部長らの研究グループによるもの。研究成果は「Circulation Journal」に掲載されている。
心房細動が脳梗塞発症の大きな危険因子であることは広く知られ、その発症予防として抗凝固薬が使用されている。従来からのワルファリンに加え、2011年以降に国内ではダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンの4つの直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が、次々と承認された。しかし、脳梗塞を起こした心房細動患者に、これらの薬を発症後、比較的早期から用いた場合にどの程度有効かは、国際的な大型試験でも明らかにされていない。
SAMURAI-NVAF研究では、2011年9月~2014年3月までの31か月間に、国内18施設に急性脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)で緊急入院し、非弁膜症性心房細動を有していた1,192例を登録。このうち退院時に経口抗凝固薬が処方された1,116例(ワルファリン650例、DOAC466例)に、追跡研究を行った。
2年後までの死亡率、補正後もDOAC群が0.41倍
今回の研究では、担当医師が各患者の病状を考慮して抗凝固薬を選んだ。そのため、ワルファリン患者群とDOAC患者群とでは、特徴が大きく異なるという。DOAC群の方がより男性が多く、若くて、脳梗塞が軽症。とくに退院時点での日常生活能力で群間差が大きく、車椅子を常に要するレベル以上の重い後遺症を有する割合が、ワルファリン群で53%だったのに対して、DOAC群で19%だった。また、この研究における他の大きな特徴として、DOAC開始日(中央値)が脳梗塞発症4日後と、従来の国内外の治療推奨よりもかなり早めに処方され始めている点が挙げられる。
画像はリリースより
解析の結果、脳梗塞発症2年後までに、脳卒中ないし全身塞栓症を起こした割合は、ワルファリン群で10.5%、DOAC群で8.4%だった。患者のもともとの特徴を補正する統計解析を行った後に、DOAC群はワルファリン群に対して1.07倍(95%信頼区間0.66~1.72倍)の危険を有していることがわかった。同じように、大出血(国際血栓止血学会分類)の危険性は0.51倍(0.22~1.08倍)、頭蓋内出血の危険性は0.32倍(0.09~0.97倍)。群間差が目立ったのは、2年後までの死亡率で、補正後もDOAC群が0.41倍(95%信頼区間0.26~0.63倍)で、ワルファリン群の死亡率が2.4倍高かった。ワルファリン群で死因の明らかな例の約半数は感染症で、なかでも肺炎が多く見られたという。
DOACが開発された際に行われた国際無作為化比較試験からは、DOACは概してワルファリンと同程度(またはそれ以上)に有効で、ワルファリンよりも安全という結果が報告されてきた。今回の脳梗塞/TIA患者を対象とした国内観察研究も、国際試験の成績と同じ傾向を示した。現在、SAMURAI-NVAF研究と海外のいくつかの同種観察研究を組み合わせた統合解析が行われており、その結果が間もなく公表される。またSAMURAI-NVAF研究からのサブ研究も、逐次公表されている。この研究成果が、脳梗塞患者のより良い治療法の開発に繋がることを願っている、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース