病因遺伝子の同定が困難な「ステロイド感受性ネフローゼ症候群」
東北大学は6月1日、ステロイド治療に部分的に反応を示す一次性ネフローゼ症候群17家系から、新規原因遺伝子群(6遺伝子)を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科小児病態学分野の工藤宏紀医師、菊池敦生助教、呉繁夫教授らの研究グループが、米ボストン小児病院のFriedhelm Hildebrandt教授らの研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、英科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
一次性ネフローゼ症候群は、尿中に多量のタンパク質が漏れ出る結果、全身の浮腫(むくみ)が起こる疾患で、小児の慢性腎疾患で最も高頻度。日本国内では小児10万人あたり年間5人が発症すると推定されている。ネフローゼ症候群に対する標準的な治療としてステロイド剤が用いられるが、ステロイド剤の効果が高い「ステロイド感受性ネフローゼ症候群」と、効果が弱い「ステロイド抵抗性dネフローゼ症候群」に分類される。ステロイド感受性ネフローゼ症候群では経過中に再発を繰り返す場合があり、そのような症例ではステロイド治療の長期化による成長障害や肥満、眼合併症といった種々の副作用が問題となっている。
これまで一次性ネフローゼ症候群の発症には免疫異常や感染症、遺伝的背景などさまざまな要因が関与していると考えられてきた。このうちステロイド抵抗性ネフローゼ症候群では、多くの病因遺伝子が同定されている。一方、小児ネフローゼ症候群の80%以上を占めるステロイド感受性ネフローゼ症候群においては、病因遺伝子の同定が困難で遺伝的要因はほとんど不明のままだった。
新規同定の病因遺伝子、同一のシグナル伝達経路に関与
今回の研究では、ステロイド感受性ネフローゼ症候群を同一家族内で発症している非常に稀な家系に注目し、患者の全エクソーム解析を実施。この家系から、ITSN2という新規病因遺伝子を同定した。この結果と海外の血族婚のあるネフローゼ症候群家系のゲノム解析結果を合わせることで、6遺伝子からなる新規病因遺伝子群を同定。この新規病因遺伝子群に変異をもつ17家系は、部分的にもステロイド治療に感受性を示すネフローゼ症候群だったという。
また、新規に同定された病因遺伝子は、いずれも同一のシグナル伝達経路(Rhoファミリー低分子量Gタンパク質の活性調節経路)に関与しており、相互作用をもつことが明らかになった。このシグナル伝達経路には、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の一部の病因遺伝子も含まれており、ステロイド感受性・抵抗性ネフローゼ症候群の両者において、共通したメカニズムがあることを示すものである。さらに同研究では、ステロイドもこのシグナル伝達経路に作用することが示唆されたという。
ステロイドがなぜネフローゼ症候群に効果があるのかは古くからの謎であったが、今回の研究成果はステロイドの作用機構の理解に重要な知見を与えると考えられる。この研究成果により、ステロイド剤の作用機序の理解が進み、今後副作用の少ない新規治療の開発が促進されることが期待される。
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