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ALSの異常凝集体を除去する治療抗体の開発に成功-慶大ら

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2018年06月04日 PM12:15

TDP-43の異常凝集体の除去が、ALSの根治治療につながる可能性

慶應義塾大学は5月31日、)の異常凝集体を除去する治療抗体の開発に成功したと発表した。この研究は、同大理工学部の古川良明准教授と、滋賀医科大学内科学講座神経内科の漆谷真教授、玉木良高特別研究学生(現病院助教)ら、京都大学大学院医学研究科神経内科の高橋良輔教授の共同研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」オンライン版にて公開された。


画像はリリースより

重篤な神経難病であるALSは、進行とともに全身の運動ニューロンが消失する。進行を遅らせる治療の開発は徐々に進んでいるものの、根治的な治療法はまだない。これまでに、本来細胞の核内に存在する「」というRNA結合タンパク質が、ALS患者の運動ニューロンの核から消失し細胞質で異常な凝集体を形成していること、さらにこの凝集体によって神経細胞死に至るさまざまな有害事象が起こることが判明し、TDP-43の異常な凝集体を除去することがALSの根治治療に直結するという可能性が注目されていた。

分子標的治療に極めて有望な「

研究グループは2012年、異常構造をとったTDP-43のみを認識し、正常な核内のTDP-43には結合しない、モノクローナル抗体「3B12A」を滋賀医科大にて開発。今回の研究では、この抗体を細胞内の異常タンパク質を除去する遺伝子治療薬とするため、3B12A抗体分子の中で抗原と結合する重鎖、軽鎖由来の可変領域遺伝子をクローニングし、2つを繋いで一本鎖抗体(scFv)を作り出す人工遺伝子を作製。さらに凝集体をオートファジーで効率よく分解するため、シャペロン介在性オートファジー(CMA)シグナルというタンパク質分解シグナル遺伝子をscFvに付与し、自己分解型細胞内抗体を発現するベクター遺伝子(3B12A scFv-CMA)を作製した。

その結果、自己分解型細胞内抗体は培養細胞で異常なTDP-43のみと結合し、凝集体を減少させ、さらに凝集体によって生じる細胞死を著明に抑制。さらに、3B12A scFv-CMAと異常凝集体との結合によってheat shock protein70(HSP70)という分子シャペロンが誘導され、TDP-43の異常凝集体を解きほぐすことで減少させるリフォールド効果も認められたという。

3B12A scFv-CMAの凝集体減少効果は培養細胞のみならず、子宮内電気穿孔法という手法を用いて遺伝子を導入した胎児マウス脳においても、TDP-43凝集体の著明な抑制効果を認め、脳の発育に明らかな有害事象を認めなかった。この自己分解型細胞内抗体は、結合する凝集体が存在しない細胞では速やかに分解されてしまうため、抗体蓄積による有害事象の懸念も少なく、分子標的治療として極めて有望と考えられるという。

今後、ALSにおける運動ニューロンへのTDP-43異常凝集体を再現するALSモデルマウスでの効果確認や、サルなどの霊長類での安全性確認実験が必要だ。この研究は、オートファジーとプロテアソームという2つの分解系での自己分解能を付与した抗体を使って細胞内の凝集体を除去するというユニークなアプローチで、難病ALSの根治治療の道を開く成果として、今後の研究に期待が寄せられる。

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