18歳以下の8万6,756患者を対象に
児童・思春期におけるADHD治療薬の日本国内における処方率を調査した研究結果が5月28日、専門誌「Epidemiology and Psychiatric Sciences」に掲載された。この研究は、医療経済研究機構が主体となり実施したもの。児童・思春期におけるADHD治療薬の処方率を日本で初めて明らかにすることを目的として行われた。
児童・思春期において、注意欠如・多動症(attention deficit/hyperactivity disorder:ADHD)の有病率は地域差が小さい一方で、ADHD治療薬の処方率には大きな地域差がある。今回研究グループは、厚生労働省が構築している、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を活用。2014年4月~2015年3月に、ADHD治療薬(徐放型メチルフェニデートあるいはアトモキセチン)を処方された、18歳以下の8万6,756患者を対象として、全国のADHD治療薬の処方率を分析した。
ADHD治療薬の人口あたりの年間処方率は0.4%
その結果、ADHD治療薬の人口あたりの年間処方率は0.4%で、この処方率は、米国(5.3%)やノルウェー(1.4%)と比較して、低い値だった。その一方で、イタリア(0.2%)、フランス(0.2%)やイギリス(0.5%)とは同様の値だった。ADHD治療薬の処方率が日本に近いこれらの国々では、日本と同様、ADHD治療薬の処方制限施策を導入している。日本では、ADHD治療に精通した医師だけが徐放型メチルフェニデートを処方できる一方で、イタリアでは、ADHD治療に精通した医師だけが、ADHD治療薬(短時間作用型メチルフェニデートとアトモキセチン)の処方を開始できる。イタリアの場合、ADHD治療に精通した医師による治療計画の下、かかりつけ医が処方を引き継ぐことができる。こうした処方制限施策が、相対的に低い処方率に寄与していると予想される。
また、ADHD治療薬の処方を受けた患者のうち、64%の患者に徐放型メチルフェニデートが 処方されていた。このメチルフェニデートのシェアは、イギリス(94%)、ノルウェー (94%)やドイツ(75~100%)と比較して、著しく低い値だった。日本においてメチルフェニデートのシェアが低い原因として、日本では、短時間作用型メチルフェニデートのADHDに対する承認が得られていないこと、日本では、アトモキセチンに処方制限がない一方で、メチルフェニデートには処方制限があること、診療ガイドラインにおいて、メチルフェニデートとアトモキセチンの両者を第1選択薬としていることが挙げられるという。
今回の結果を受け、日本での低い処方率は「本来、薬物療法の恩恵を受けられる人が、薬物療法のアクセスを阻害されている」という、過少処方の可能性を示唆し得ることには、留意が必要と思われると研究グループは述べており、現状の処方率が、過少処方であるか適正使用の範囲にあるか、さらなる検討が求められるとしている。