日本人集団に特異的な遺伝子多型が酵素機能に与える影響
東北大学は5月29日、5-フルオロウラシル(5-FU)系抗がん剤の代謝酵素について、日本人集団に特異的な遺伝子多型が酵素機能に与える影響とそのメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科生活習慣病治療薬学分野の平塚真弘准教授(東北メディカル・メガバンク機構、東北大学病院兼任)、菱沼英史助教(現・東北メディカル・メガバンク機構、未来型医療創成センター)、山本雅之教授(東北メディカル・メガバンク機構機構長)らの研究グループによるもの。研究成果は「Drug Metabolism and Disposition」に掲載されている。
画像はリリースより
これまで、5-FU系抗がん剤の分解代謝酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)の遺伝子DPYDについて、重篤な副作用発現を予測する遺伝子多型マーカーが、欧米の先行研究で数種類報告されていた。しかし、それらの遺伝子多型には民族集団差があり、日本人を初めとする東アジア人集団では、5-FU系抗がん剤の副作用発現を予測できる遺伝子多型マーカーがなかった。近年、東北メディカル・メガバンク機構による大規模な日本人集団の全ゲノム解析によって、頻度が低いためにこれまで見落とされてきた遺伝子多型が数多く同定されており、これらの低頻度遺伝子多型の中に日本人集団特有の副作用発現予測遺伝子多型マーカーが存在する可能性がある。
全ゲノムデータを3,554人に拡大、新たな多型も解析中
研究では、日本人1,070人の全ゲノム解析で同定された21種のDPYD遺伝子多型情報をデータベースから抽出し、酵素タンパク質のアミノ酸配列の一部を人工的に置換したDPD酵素を作製。これらの酵素と5-FUを反応させて代謝物の生成量を測定し、11種の遺伝子多型でDPD酵素の機能が著しく低下することを明らかにした。また、機能が低下するメカニズムに関して、酵素の複合体形成能が低下することや活性発揮に重要な部位の立体的構造が変化する可能性を初めて明らかにした。
今回の研究で、DPYD遺伝子多型による酵素機能変化が明らかとなり、これまで東アジア系の民族集団では困難であった5-FU系抗がん剤による副作用発現予測を行うための基礎データが得られた。酵素活性が低下または消失した遺伝子多型を有する患者では、副作用発現リスクが高くなる可能性が考えられ、今回同定された遺伝子多型が副作用マーカーとして利用できる可能性が示唆された。2018年5月現在、東北メディカル・メガバンク機構では、全ゲノムリファレンスパネルのデータを3,554人に拡大しており、それにより新たに同定された多型についても現在解析を進めている。
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