遺伝情報を守るために重要な機能「ミスマッチ修復機構」
九州大学は5月29日、これまで謎とされていたアクチノバクテリアのグループのミスマッチ修復機能を明らかにしたと発表した。この研究は、同大農学研究院の石野園子准教授と、仏研究機関Ecole PolytechniqueのHannu Myllykallio教授が率いる研究チームが共同で行ったもの。研究成果は、国際核酸研究誌「Nucleic Acids Research」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
生物は、遺伝情報を担うDNAが傷つけられた際に、それを修復する能力を備えている。DNAはA-T、G-Cの塩基対から構成されているが、それ以外の組み合わせは、ミスマッチ塩基対と呼ばれ、遺伝子突然変異の原因となる。これを修復するミスマッチ修復機構は、生物が自らの遺伝情報を守るための重要な機能のひとつ。これまで大腸菌などの真正細菌、ヒトなど真核生物で多くの研究が報告されており、2つのタンパク質MutS、MutLがミスマッチ修復で重要な役割を果たすことはすでに明らかになっていた。
2016年に、同大農学研究院の石野良純教授らの研究グループは、超好熱性アーキア(古細菌)の一種から酵素EndoMS(nucS遺伝子産物)を発見。アーキアが既知のMutS/MutLタンパク質による修復機構とは異なる新たなミスマッチ修復機構を有することを予想した。
薬剤耐性のしくみの理解にも貢献と期待
今回の研究では、食品や医薬品向けのアミノ酸の生産菌として知られる細菌種Corynebacterium glutamicumがMutS/MutLを持たずにnucS遺伝子を有することに注目。nucS遺伝子の欠損株を作製して調べたところ、突然変異率が顕著に上昇することを発見した。また、精製したEndoMSを用いた解析では、真正細菌のクランプ分子であるDNAポリメラーゼIIIのβサブユニットの共存下で、アーキアEndoMSと同様の基質認識と切断が生じることが判明。さらに、クランプ分子への結合に関わる部分が欠失した変異EndoMSを産生する変異株を作製すると、nucS遺伝子全部を欠損させた場合と同様の突然変異率上昇が見られ、EndoMS/nucSが関与する細胞内の突然変異と試験管内DNA切断反応の相関を初めて観察することに成功したという。
これらの研究により、この修復機構がDNA複製と連携して機能することで、ゲノム情報の安定な維持に寄与していることが示された。この成果は、アクチノバクテリアに属する結核菌が、薬剤耐性を獲得しやすいしくみについての理解にも貢献するものとしても注目される、と研究グループは述べている。
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