SNPより頻度は低いが単独では大きな遺伝子変化のレアバリアント
東京大学は5月25日、大規模ヒトゲノム研究を行い、日本人における心筋梗塞発症と強く関係する遺伝子変化「レアバリアント」を明らかにする研究結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科の森田啓行講師と小室一成教授、同大大学院医学系研究科医学博士課程/理化学研究所生命医科学研究センターの田島知幸研修生(研究当時)、理化学研究所生命医科学研究センター循環器疾患研究チームの伊藤薫チームリーダーと基盤技術開発研究チームの桃沢幸秀チームリーダーらによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にて発表された。
画像はリリースより
心筋梗塞発症のリスク因子としては生活習慣や環境リスク以外に、SNP(一塩基多型)などの遺伝要因が複数組み合わさり、発症しやすさが規定されていることがわかってきた。心筋梗塞に関連するSNPは、最近10年間で約160個同定されている。これらのSNPは心筋梗塞発症と有意に相関するが、各SNPの単独の効果は軽微で、発症しやすさの予測を目的とした、生活習慣や環境リスクと遺伝リスクを組み合わせたアルゴリズムが確立されていない。そのため、SNP情報だけで発症予測は可能かどうか、SNP情報は臨床的に有用であるか否かを結論できていない状況にある。
近年では、SNPと比較して頻度は低いものの、単独の効果はより大きな遺伝子変化である「レアバリアント」が、臨床応用に適した遺伝子変化として期待されている。欧米では、心筋梗塞発症と相関するレアバリアントを探索する大規模ヒトゲノム研究ですでに成果が出始めている。欧米と日本では人種の違いから遺伝子変化の分布が大きく異なることから、今後は日本独自のヒトゲノム解析が必要と考えられている。
LDLR、PCSK9のレアバリアント集積が強く相関
今回、研究グループは日本人心筋梗塞患者約1万例のゲノムを用いて心筋梗塞発症と相関するレアバリアント探索を実施。これまでの国内外の冠動脈疾患相関SNP解析(ゲノムワイド相関解析)結果をふまえ、候補遺伝子を36遺伝子に絞り込んだ。心筋梗塞群9,956例および健常対照群8,373例を対象に、multiplex PCR法を用いて36遺伝子のエクソン領域を標的にゲノムDNAを増幅後、次世代シークエンサーを用いて高速シークエンスを行った。
その結果、脂質関連遺伝子LDLR、PCSK9のレアバリアント集積が心筋梗塞発症と強く相関していることが見出されたという。欧米の検討でもLDLRのレアバリアント集積が心筋梗塞発症と強く相関していることは報告されている。人種を越えて遺伝要因が相関していることから判断すると、家族性高コレステロール血症という「遺伝性」病態にみられるのと同様、「脂質異常症→心筋梗塞」という臨床的パスウェイは一般の集団でも遺伝的に規定されて普遍的に成立しているといえるという。また、LDLコレステロール降下療法が心筋梗塞予防の最重要戦略であることも示唆しているという。
研究グループは、家族性高コレステロール血症の家族歴の有無にかかわらず、若年期のうちにLDLR、PCSK9遺伝子をシークエンス解析し、レアバリアントを保有する個人ではLDLコレステロール値を継続的に評価し、早期から徹底した降下療法を開始することにより、将来の心筋梗塞発症を予防することが可能になると考えられるとしている。
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