初期化の最初の段階に起こる「脱分化」
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は5月25日、膵臓がんが発生するメカニズムとして、遺伝子変異以外のメカニズムを解明したと発表した。この研究は、柴田博史特別研究学生(元 京都大学CiRA, 岐阜大学大学院医学系研究科)および山田泰広教授(元 京都大学CiRA、現 東京大学医科学研究所、AMED-CREST)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」で公開されている。
画像はリリースより
体細胞からiPS細胞へと変化する初期化の過程では、遺伝子の変化を伴わないエピジェネティックな変化によって細胞の性質が大きく変化する。まず、元の細胞で働いていた遺伝子の働きが弱くなる脱分化が起こり、さらに初期化が進むと多能性を持つ細胞(iPS細胞)へと変化する。そして、がん細胞が発生する際にも、脱分化に似た状態が生じていることが知られていた。
Kras変異マウスの膵臓細胞を脱分化、膵臓がんを形成
そこで研究グループは、がんの原因となる代表的な遺伝子であるKrasやp53の変異によって誘導される膵臓がんを対象として、膵臓の細胞を部分的に初期化することで脱分化を起こし、がん発生に与える影響を検証した。
その結果、膵臓の細胞を脱分化すると、膵臓の細胞を特徴づける遺伝子の働きが一時的に抑制された。これは膵臓がんの危険因子のひとつとされる膵炎で見られる現象に似ていたという。Kras遺伝子に変異を持つマウス、あるいはKrasとp53遺伝子に変異をもつマウスでは、がんの代表的な細胞内シグナル伝達に関わるタンパク質であるERKが十分に活性化されておらず、膵臓がんにまでは至らなかったが、Kras変異マウスに一時的に初期化因子を働かせて膵臓細胞を脱分化させると、ERKが活性化され、膵臓がんを形成した。これらの結果から、脱分化に伴うエピジェネティックな変化が、膵臓がんの発生に重要な役割を果たしていると考えられる。
ここれまで、がんの主要因として遺伝子変異が注目されてきたが、小児がんの一種である腎芽腫においてはエピジェネティックな変化ががん化の原因のひとつであることが示されていた。今回の研究で、成人が発症する代表的ながんである膵臓がんの発生においても遺伝子変異だけではなく、エピジェネティックな変化が重要であると判明したことで、今後さらなるがんのメカニズムの解明に貢献できると期待される。
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