アポE E4保有者はアルツハイマー病発症リスクが約3.9倍
日本医療研究開発機構(AMED)は5月23日、認知症の遺伝的危険因子である「アポリポタンパクE(アポE)E4」を有する高齢女性において、血中ビタミンC濃度高値が将来の認知機能低下リスクの減少と関連することを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、金沢大学医薬保健研究域医学系脳老化・神経病態学(神経内科学)の山田正仁教授、篠原もえ子特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、認知症専門誌「Journal of Alzheimer’s Disease」に掲載されている。
認知症の原因疾患として過半数を占めるアルツハイマー病の発症には、食事や運動などの生活習慣、それに関連する糖尿病や高血圧といった生活習慣病などの環境因子と遺伝的因子の両者が関与すると考えられている。
リポタンパク質と結合して脂質の代謝に関与するタンパク質であるアポEは、遺伝子によって決まる3つのタイプ(E2、E3、E4)がある。そのなかでも、E4を有していることはアルツハイマー病の危険因子とされている。日本人では、アポE E4の保有(E3/E4)は非保有者(E3/E3)に比べて、アルツハイマー病発症のリスクが約3.9倍になることが報告されている。また、アポE E4保有はとくに女性において強力なアルツハイマー病発症の危険因子であることが知られている。しかし、このアポE E4保有者において、認知機能低下リスクを低減する方法は確立していない。
認知機能正常な高齢者を平均7.8年後に追跡調査
研究グループは、認知症地域コホート研究において、アポE E4を保有していても認知機能低下が見られない高齢者の栄養・食品摂取習慣に着目して、前向き縦断研究を行った。金沢大学附属病院神経内科では2006年より七尾市中島町で認知症の疫学研究(中島町研究)を継続している。今回は、2007~2008年の中島町研究の調査(ベースライン調査)に参加した認知機能正常の地域在住高齢者(65歳以上)について、平均7.8年後に追跡調査を行い、認知機能を評価した。
ベースライン調査時に抗酸化ビタミン(ビタミンC、E)の血中濃度とアポE表現型の測定を行い、ビタミンC、E血中濃度とアポE E4保有と将来の認知機能との関連を解析。ビタミンC、Eの血中濃度は、男女別に、低い群、中間の群、高い群の3群に分けて解析した。
解析の結果、アポE E4保有女性において、血中ビタミンC濃度が最も高い群は、最も低い群と比べて、将来の認知機能低下(認知症または軽度認知障害の発症)のリスクが0.10倍(オッズ比)に減少していたことが判明。アポE E4非保有女性および男性ではビタミンC血中濃度と将来の認知症/認知機能低下リスクとの関連は有意ではなかったという。なお、アポE E4保有男性は人数が少なく解析ができなかったとしている。
画像はリリースより
また、アポE E4非保有男性では、血中ビタミンE濃度が最も低い群に比べて、ビタミンE濃度が最も高い群は将来の認知機能低下のリスクが0.19倍(オッズ比)、中間の群は0.23倍(オッズ比)に減少していたという。アポE E4保有/非保有女性ではビタミンE血中濃度と将来の認知症/認知機能低下リスクとの関連は有意ではなかった。こちらについても、アポE E4保有男性は人数が少なく解析ができなかったとしている。なお、同研究の参加者はほとんどビタミンC、Eサプリメントを使用していなかったという(それぞれ0.2%、1.7%)。
この研究結果により、将来認知機能が低下するリスクが高いアポE E4保有女性において、ビタミンCを豊富に含む食品を摂取することが認知機能低下リスクを下げる可能性が示された。研究グループは今後も、アポE E4保有者におけるアルツハイマー病発症過程をビタミンCが抑制する作用機序の解明、さらに、アポE E4遺伝子保有者を対象に含むビタミンCによるアルツハイマー病に対する予防介入研究などを行い、認知症先制医療の確立を目指していきたいとしている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース