「カルシウムチャネル」に注目
北海道大学は5月23日、インフルエンザウイルス感染の鍵となる受容体タンパク質を発見し、高血圧治療薬「カルシウムブロッカー」がインフルエンザ感染の特効薬になる可能性を見出したことを発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の大場雄介教授、藤岡容一朗講師らの研究グループによるもの。研究成果は「Cell Host&Microbe」に掲載されている。
画像はリリースより
インフルエンザウイルスの宿主細胞への侵入メカニズムについて、その侵入メカニズムの全貌は解明されていない。とくに、インフルエンザウイルス感染の最初のステップにおいて、ウイルスの結合の鍵となる宿主側受容体タンパク質は見つかっていない。
研究グループは、インフルエンザウイルス感染において、細胞外から細胞内へカルシウムイオンが流入し、それにより生じる細胞内のカルシウムイオン濃度上昇が感染に重要な役割を果たすことを報告している。今回の研究では、細胞外のカルシウムイオンを細胞内に取り込むタンパク質「カルシウムチャネル」に注目して、ウイルスの細胞への侵入との関わりを調べた。
カルシウムブロッカー投与マウスでウイルス感染が抑制
研究グループは、カルシウムチャネルの機能を抑制する薬で、高血圧治療にも用いられるカルシウムブロッカーがウイルスの細胞への侵入と感染を防ぐかについて検証。また、カルシウムチャネルがインフルエンザウイルスと結合するか、この結合がウイルス感染に重要か検討した。最終的には、マウスにおいてカルシウムブロッカーがウイルス感染を抑える効果があるかについて検証した。
その結果、カルシウムブロッカーを培養細胞に処理したところ、ウイルスの侵入と感染が抑えられた。また、インフルエンザウイルスとカルシウムチャネルが結合し、この結合が感染に重要であることが明らかになったという。さらに、カルシウムブロッカーを投与したマウスではウイルス感染が抑えられたことから、生体内でもカルシウムブロッカーの投与がインフルエンザ感染に効果的であることが示されたとしている。
今回の研究により、カルシウムチャネルがインフルエンザウイルス感染に鍵となる受容体タンパク質であることが明らかになった。カルシウムチャネルを標的とした治療は、ウイルスの細胞への侵入を防ぐ。最近問題になっている薬剤耐性株は、細胞への侵入後に細胞内で作られるため、カルシウムブロッカーによるウイルス侵入阻害は、ウイルスに薬剤耐性を獲得するチャンスを与えないと予想されるという。今回の研究成果は、新規概念に基づく創薬や治療へと発展することが期待される、と研究グループは述べている。
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