麻酔の必要がなく、副作用のリスクも小さいtDCS
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は5月21日、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current current stimulation, tDCS)の統合失調症に対する治療効果を、近赤外線スペクトロスコピー(near infrared spectroscopy, NIRS)で予測し得ることを、世界で初めて見出したと発表した。この研究は、NCNP精神保健研究所児童・予防精神医学研究部の住吉太幹部長および成田瑞(同部研究生)らのグループによるもの。研究成果は、科学雑誌「Journal of Psychiatric Research」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
統合失調症は一般人口の約1%が罹患する、原因不明の精神疾患。主な症状として幻覚や妄想などの精神病症状が挙げられる。
tDCSとは1-2mA程度の微弱な電流を頭皮上から当てる方式のニューロモデュレーション。頭皮上に2つのスポンジ電極を置き、電極間に微弱な電流を流すことで、脳の神経活動を修飾する治療法だ。麻酔の必要がなく、副作用のリスクが小さいなどの利点がある。これまでtDCSによる統合失調症の精神病症状に対する効果が示されてきた一方で、その効果を予測する指標は確立されていなかった。
NIRSの活用で、医療資源の適正な使用の推進にも期待
今回の研究ではtDCSによる精神病症状の変化値と、NIRSで測定される酸素化ヘモグロビンの積分値との関連を解析。その結果、左頭頂側頭部の酸素化ヘモグロビン積分値と、精神病症状の変化値の間に、有意な相関が示された。すなわち、脳の神経活動が大きいほどtDCSの治療効果も大きいことがわかったという。
今回の研究結果から、ニューロモデュレーションの統合失調症への治療効果において、NIRSで測定される酸素化ヘモグロビンがバイオマーカーとなる可能性が示された。これにより、tDCSの効果を事前に予測することで、ニューロモデュレーションの合理的な運用につながる。また、治療効果の予測にNIRSを用いることで、薬物療法を含めた医療資源の適正な使用の推進が期待される。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース