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日本市場の魅力が低下、経営自由度の高い米・中へ-日薬連・多田会長

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2018年05月23日 AM10:15


■予防医療への参画必要性も

日本製薬団体連合会の多田正世会長(大日本住友製薬会長)は、任期満了を前に薬事日報のインタビューに応じ、日本の市場環境について、「米国や中国を中心とした戦略を進める製薬企業が増えており、投資先としての魅力が低下している」と危機感を募らせた。中でも薬価制度の抜本改革で実施された新薬創出等加算品目の見直しは、「新薬開発の意欲を削ぐ」と強く批判。5年に1度行われる薬機法の見直しに対し、条件付き早期承認制度・先駆け審査指定制度を法制度化して革新的医薬品の創出を促すことなどを厚生労働省に求める要望書を提出し、「国の対応として高い視点、広い視点で薬価と産業政策を一体化した議論ができるようにしていただきたい」と訴えた。

多田氏は、武田薬品がアイルランドのシャイアーを約7兆円で買収するなど、日本の製薬企業を取り巻く事業環境の変化について、「医薬品を産業ではなくコストと考えるようになっている。日本や欧州では医薬品の価格を国がコントロールしているが、一方で米国では自社で値付けできるため、経営の自由度が高く、米国を中心に事業展開を進める動きが強くなっている。シャイアーの売上全体の約6割を米国市場が占めていることを考えると、マーケットの地合が買収の背景にあるのではないか」との見方を示す。製薬企業がグローバルで事業活動を行う上で、国や地域を選別する時代を迎える中、新薬開発で規制緩和を進める中国が台頭しつつあり、「日本市場の魅力が低下している。日本市場に依存する企業も多く、各社悩んでいる」と述べた。

4月に実施された薬価改定では、「市場環境の厳しさから、過去最大の改定幅となった」との認識を示す。中でも新薬創出等加算品目の見直しから企業要件や品目要件が設けられ、特許期間中であるにもかかわらず、多くの品目が薬価を引き下げられた。

多田氏は、「新薬開発への意欲を削ぐ」と指摘。「現在、市場で評価されている薬剤を見ると、アムロジピンやロスバスタチンのように3年・3番手以降に上市された薬剤もある。われわれは新規作用機序のファーストインクラス医薬品の研究開発を目指しているが、既存医薬品を改良するベストインクラス医薬品の開発にも取り組んでいる。研究開発を否定された印象だ」と話す。

後発品上市後10年を経過した長期収載品の薬価を引き下げる「G1」「G2」の導入についても、「長期収載品の薬価を引き下げ、新薬に集中するという方向性はわれわれも受け入れている。しかし今回バランスを欠いているのは、長期収載品の引き下げを行う一方で、特許期間中の新薬の加算に制限を課していることだ」と述べた。

その一方、評価できる点については、「基礎的医薬品の拡充と、原価計算方式での加算方法を変更していただいたこと」を挙げた。

今後は、「イノベーションに集中する環境が必要」とし、「産業側が主導してアカデミア発シーズから新薬を創り出すシステムを構築し、国に要望していきたい」と述べた。

薬機法改正に伴い、先駆け審査指定制度や条件付き早期承認制度の法制化を要望したのもその一環で、「少ない臨床試験データで承認を取得できるようになれば、われわれにとって勇気づけられるものになる」と語った。

また、持続可能な社会保障制度やイノベーションの推進を両立させるためには、製薬産業が予防医療に参画する必要性に言及。「患者が早い段階で診断を受け、治療を行い、健康寿命が延びるようになれば、医療費は下がる。そこに点数を付けるのはいい考え方」とし、「われわれは医薬品を販売することが仕事であるが、それでビシネスにならなければ、業態の変更はあり得る。国民の健康長寿をいかに実現するかが大事。患者、国、製薬企業が相手の立場を考えて協力していくべきだ」と語った。

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