CINの円錐切除には早産・流産の周産期予後リスクが
京都大学は5月18日、抗ウイルス薬「FIT-039」が抗HPV作用を示し、子宮頸部異形成(CIN)の治療薬となりうることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の萩原正敏教授と網代将彦特定助教らの研究グループによるもの。研究成果は、米がん学会誌「Clinical Cancer Research」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染により生じるウイルス性のがん。子宮頸部の上皮組織などで持続感染が成立した場合、数年の期間を経て前がん病変であるCINを経て、一部の症例では子宮頸がんに進展する。子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の導入は、世界で進みつつあるが、日本では接種率が0.5%を下回っており、今後もCIN、子宮頸がん患者数の増加が予想される。
CINの初期段階では経過観察がとられ、進行すると外科治療(円錐切除)以外に対処法がなく、がんが進展すると子宮を全摘するしか方法がなくなる。また、CINの円錐切除では早産・流産の周産期予後リスクがあるため、薬剤等による身体を傷つけない治療法が望まれている。
CINに対する医師主導臨床試験、2018年度に開始予定
FIT-039は、研究グループがこれまでに抗ウイルス活性を見出したサイクリン依存性キナーゼ9(CDK9)阻害剤。HPVの発がん・ウイルス複製機能を担う遺伝子は、CDK9により制御を受けていることから、今回、研究グループはFIT-039による抗HPV活性を調査した。がんと関連するHPV型(おもに16・18型)は、口腔・生殖器などの粘膜上皮組織に感染するため、粘膜上皮角化細胞にHPVを導入してFIT-039の効果を検討した。
その結果、細胞増殖やCINの特徴である異形成が抑えられるなど、治療効果を示すことが判明。また、マウスにおける子宮頸がん細胞のゼノグラフト腫瘍でもHPV感染腫瘍の増殖抑制が認められたという。FIT-039投与による有害事象は認められず、CINを治療してがんへの進展を予防する新薬になりうることが明らかになったとしている。
現在、FIT-039は京都大学医学部附属病院皮膚科でウイルス性疣贅(いぼ)に対して医師主導による臨床試験が進められている。また、CINに対する医師主導臨床試験についても、同病院産婦人科で2018年度に実施される予定。
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・京都大学 研究成果