バイオマーカーや根本的治療薬の開発が待たれるPAH
東北大学は5月18日、指定難病である肺動脈性肺高血圧症(PAH)の新規分子機序を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授、佐藤公雄准教授、菊地順裕医員の研究グループによるもの。研究成果は、米国心臓協会(AHA)の学会誌「Circulation」(電子版)に掲載された。
画像はリリースより
PAHは、微小肺動脈の血管壁を構成する細胞の異常な増殖や、局所での炎症細胞の活性化などが複雑に相互作用することで肺動脈が狭窄・閉塞し、心臓から肺に向かう血圧が高くなる疾患。その結果、心臓(右心室と右心房)に過剰な負荷がかかり右心不全をきたす。症状が重篤になるほど生存率が下がり、早期発見が極めて重要となる。
PAHには特徴的な症状がないことから、循環器専門医でも早期診断を行うことが難しい。また薬物治療が有効でない場合も多いため、多剤併用療法や、最終的には肺移植が必要となることもある。とくに、現在PAHの治療に用いられる内服薬は、狭くなった血管を拡張させ、血管抵抗を下げることで肺動脈の降圧作用を狙うもので、肺血管壁の細胞増殖そのものを抑える根本的な薬剤は実用化されていない。これらの理由から、同疾患の早期診断のための特異的なバイオマーカーや、根本的な治療薬の開発が望まれている。
新規病因タンパク質SePを発見
研究グループは、PAHの新規病因候補遺伝子・タンパク質の網羅的探索を実施。その結果、これまでPAHとの関連が全く示唆されていなかったタンパク質「セレノプロテインP(SeP)」を発見したという。そして臨床検体や遺伝子改変動物を用いた解析の結果、SePがPAHの主な病変部位である肺動脈平滑筋細胞の異常な増殖を促進し、PAHの病態に深くかかわっていることを解明した。PAH 患者では、健常者に比べて血液中のSeP濃度が上昇しており、血中SeP濃度が疾患の重症度や予後と相関することを発見したとしている。
また、複数のPAHモデル動物に対して薬剤を用いてSePを抑制することにより、PAHの発症予防効果と治療効果が得られることを明らかにしたという。そのSeP抑制薬の候補物質も明らかにしており、すでに、PAHに対する特異的バイオマーカーおよび治療ターゲットとしてSePの特許出願を行っているという。
今回の研究は、発症機序に未解明な点が多く残されているPAHの分子機序の解明と共に、早期発見のための新規バイオマーカー、そして新規治療ターゲットとしてのSePの役割を解明したもの。今後、同研究に基づき、基礎研究から臨床応用へのトランスレーショナルリサーチを発展させ、非侵襲的診断法への応用や、新規治療薬の開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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