遺伝子機能欠損が例外的に顕性遺伝するハプロ不全に着目
産業技術総合研究所は5月17日、必須遺伝子の機能欠損が、高い頻度で顕性遺伝することを発見したと発表した。この研究は、東京大学大学院新領域創成科学研究科の大貫慎輔特任研究員と大矢禎一教授(産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ客員研究員兼務)の研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS Biology」オンライン版にて発表された。
画像はリリースより
顕性遺伝(従来、優性遺伝と呼ばれていた遺伝)と潜性遺伝(従来、劣性遺伝と呼ばれていた遺伝)はグレゴール・メンデルによって定式化され、現代の遺伝学での基本的な概念となっている。さらに、これまで遺伝子の機能欠損は、ほとんどが潜性遺伝すると考えられてきた。
異型接合体とも呼ばれる「ヘテロ接合型」は、二倍体生物において遺伝子座がAaのように異なる対立遺伝子を持つ状態を指す。Aが機能を持つ対立遺伝子で、aが機能欠損突然変異である場合には、突然変異(a)が機能を持つ対立遺伝子(A)によって補われるので、機能欠損の表現型が現れない(顕性遺伝しない)と予想されるが、それにも関わらず遺伝子機能欠損が顕性遺伝する現象を「ハプロ不全」と呼び、例外的に見られる遺伝現象であると考えられてきた。
疾患遺伝子診断、薬剤標的の探索に期待
研究グループは真核生物のモデルとして知られる出芽酵母において、必須遺伝子のヘテロ接合型変異株の単細胞形態表現型を高次元かつ網羅的に調べ、ハプロ不全は決して例外的な遺伝現象ではないことを発見。出芽酵母には1,112の必須遺伝子があるが、全必須遺伝子の59%(657遺伝子)の欠損変異株が野生型株とは異なる細胞形態を示し、ハプロ不全性を示した。つまり6割近くの必須遺伝子の機能欠損が顕性遺伝したことになる。
今回の研究は、ひとつひとつの細胞の形態表現型を多くの観点から定量的に分析したことにより、多数の遺伝子の機能欠損が顕性を示すことを明らかにしたもの。この発見が、複雑な生物学的システムの解析や疾患遺伝子の診断、薬剤標的の探索に役立つことが期待される。
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・産業技術総合研究所 研究成果