包括的なバイオマーカーの確立が求められる肝細胞がん
新潟大学は5月16日、2016年2月より行っている株式会社カイオム・バイオサイエンスとの共同研究において、肝がんのヒト臨床検体でのDLK-1を含む肝前駆細胞マーカーの発現と腫瘍マーカー、病態との関連性や治療標的分子としての可能性について検討した結果を発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の寺井崇二教授、土屋淳紀講師、同大消化器・一般外科分野の若井俊文教授らの研究グループによるもの。研究成果は米論文誌「Oncotarget」に掲載されている。
画像はリリースより
肝がんは、がんによる死亡者数が世界で2番目に多いがん種。その90%は原発性の肝細胞がんからなり、C型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスの感染、アルコールの過剰摂取、非アルコール性脂肪性肝炎など、さまざまな背景によって多段階にがんの発生と進行が進む。
肝細胞がんは、組織学的に非常に不均一ながん細胞集団から構成されることから、患者の層別化を難しくしている。そのため、腫瘍細胞の挙動や予後因子など包括的な肝細胞がんのバイオマーカーの確立が必要とされている。
DLK-1、肝前駆細胞マーカーの中で最も高率に発現
研究グループは、新潟大学医歯学総合病院と新潟県立中央病院で、2008~2014年の間に肝細胞がん患者から摘出された肝細胞がん病理検体251症例(新潟大学医歯学総合病院:160症例、新潟県立中央病院:91症例)について、発現すると臨床上予後不良になると考えられている4種類の肝幹・前駆細胞マーカー(EpCAM、NCAM、DLK-1、CK19)の発現プロファイルを免疫組織染色で解析。患者の臨床病理学的な特徴、がん悪性度、血清腫瘍マーカー(AFP、AFP-L3、DCP)、手術後の患者予後との相関について、レトロスペクティブに解析した。
その結果、4種類の肝前駆細胞マーカーのうち、2種類以上の肝前駆細胞マーカーを同時に発現している肝細胞がん患者では術後の予後が不良で、肝前駆細胞マーカーの発現頻度は血清腫瘍マーカーのAFP、AFP-L3のレベル、腫瘍血管の浸潤の頻度、がん細胞の分化度から判断される腫瘍の悪性度との相関が認められたという。とくにEpCAMの発現、DCP≥300mAU/ml、年齢≥60、肝機能を表す指標であるChild-PughスコアのグレードBまたはCが、肝細胞がん患者の独立した予後予測因子となりうることが判明した。また、DLK-1の肝細胞がん中での発現は、肝前駆細胞マーカーの中でも最も高率に認められ、高率に他の肝前駆細胞マーカーとの重複が見られ、その発現は臨床上頻用されるAFP、AFP-L3のレベルから高率に予想できることが明らかになったとしている。
今回の研究成果について、研究グループは、「肝前駆細胞マーカーと血清腫瘍マーカー、肝がん臨床転帰との関連性の研究に向けて道を開く成果であり、将来的に遺伝子変異などの情報と統合することにより更に肝細胞がんの個別化医療にむけて道を開く研究と考える」と述べている。
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・新潟大学 研究成果