8,913人の日本人データと331人のアジア人データを解析
京都大学は5月14日、8,913人の日本人データと331人のアジア人データの解析によって、黄斑症の発症にCCDC102Bという遺伝子・分子が強く関与していることを発見したと発表した。この研究は、同大医学研究科の山城健児非常勤講師(大津赤十字病院眼科部長)、辻川明孝教授らと、東京医科歯科大学、シンガポール国立眼科センターの研究グループによるもの。研究成果は「Nature Communications」に掲載されている。
近年、世界で近視が急増しており、近視の程度が強い「強度近視」では合併症である黄斑症が生じ、治療を行っても失明することが少なくないことが問題となっている。とくに、アジアでは強度近視が多く、日本では失明(WHO基準の矯正視力0.05未満)の原因の1位は強度近視。今まで近視の発症背景については世界中でさまざまな研究が行われてきたが、強度近視から黄斑症が発症する機序についてはあまり解明されていなかった。
京都大学大学院医学研究科では滋賀県長浜市と共同で、長浜市民1万人から集めたさまざまな健康情報、血液や尿の成分、環境・生活習慣の情報などを統合して解析することで病気の原因や老化のメカニズムを解明し、医学の発展と市民の健康づくりに貢献することを目指した「ながはま0次予防コホート事業」を行っている。今回の研究では、このコホートのデータを活用して、黄斑症が発症する機序を解明した。
CCDC102Bが黄斑症の発症、その後の萎縮性変化による失明に関連
研究グループは、ながはまコホートの7,755人の眼底写真とゲノム情報を活用して、ゲノムワイド関連解析を行い、CCDC102B遺伝子が黄斑症の発症に強く関わっていることを発見したという。さらに、京都大学医学部附属病院眼科と東京医科歯科大学医学部附属病院眼科の強度近視患者データ1,158人分を用いて、CCDC102B遺伝子が強度近視患者の黄斑症発症に関わっていることを確認。シンガポール国立眼科センターと共同で中国人、マレー人、インド人の強度近視患者331人でもCCDC102Bが黄斑症発症に関わっていることを確認した。
CCDC102Bは、人の目の網膜や網膜色素上皮、脈絡膜といった、黄斑症によって萎縮性変化を来す部位に発現していることをPCRで確認したという。これらの結果により、CCDC102Bが、強度近視眼における黄斑症の発症およびその後の萎縮性変化による失明に大きく関わっていることが明らかになったとしている。
画像はリリースより
さらに、CCDC102Bは近視・強度近視が発症する段階には無関係であることも判明。強度近視が発症するまでの段階に関わる背景因子と、その後に黄斑症が発症する段階に関わる背景因子は異なり、もし強度近視になっても、黄斑症の発症や失明は予防できる可能性があることもわかった。
今回の研究結果からは、CCDC102B遺伝子を調べることで強度近視から失明に至る黄斑症を発症しやすいかどうかを判断することができる可能性が高まった。しかし、黄斑症の発症に関わる遺伝子は他にも複数存在する可能性があり、さらに研究を進めることで黄斑症の発症予測の精度を向上させていく必要があるとしている。今後、CCDC102Bがどのように黄斑症の発症に関わっているのかを調べていくことで、黄斑症の発症を予防し失明を減らす方法を開発していく予定、と研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果