従来法には「予測区間」の過小評価という課題が
京都大学は5月14日、メタアナリシスにおいて、治療効果の集団内での異質性を適切に評価し、正確に予測する統計手法を開発したと発表した。この研究は、統計数理研究所医療健康データ科学研究センターの長島健悟特任准教授、同研究所データ科学研究系の野間久史准教授(同副センター長兼任)および京都大学大学院医学研究科の古川壽亮教授の共同研究グループによるもの。
画像はリリースより
メタアナリシスとは、過去に行われた臨床試験の結果を統合し、関心のある薬剤・治療法の治療効果や副作用の大きさを評価するための研究手法。メタアナリシスでは、試験間の平均治療効果と、異質性(治療効果の違い)の大きさを評価することが、重要であり一般的だ。それとともに、将来試験を実施した際に観察される治療効果の値など、将来観察される推測対象の値を含む可能性が高い区間である「予測区間」を示すことが推奨されている。
しかし、従来の予測区間は、統合する試験の数が少ない場合に、区間の幅を過小評価してしまうことが知られていた。また、その区間の幅を過小評価すれば、治療効果の過小評価と過大評価の両方が起こりうるため、正確な予測区間の評価方法の開発が必要とされていた。
The Comprehensive R ArchiveNetworkで公開
今回の研究は、これまでの過小評価の原因の大部分が、各試験間の異質性の影響を過小評価している点であることを明らかにし、予測区間を正確に計算する方法を開発。シミュレーションによる性能評価により、統合する試験の数が少なく、標準的な方法で大幅な過小評価が起こる場合においても、新手法ではほとんど過小評価が起こらないことを示したという。
また、線維筋痛症におけるプラセボ治療に対する抗うつ薬の痛みの低減効果を検討した実際の医学研究に適用したところ、標準的な方法と新手法でまったく違う結果となり、従来の方法では予測区間を過小評価し、より狭い範囲として公表していた可能性があったことが判明したとしている。
新手法を用いることで、医療政策や診療ガイドラインの策定、実臨床の現場に、より正確な科学的エビデンスを提供できることが期待される。なお、同研究で提案した新手法を実装したソフトウェアはThe Comprehensive R ArchiveNetwork(https://cran.r-project.org/package=pimeta)で公開されており、誰でも無償利用することができる。
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・京都大学 研究成果