抗がん治療の発展した現在も予後不良な膵がん
東京大学医学部附属病院は5月10日、反復配列RNAの異常発現が膵がん発生を促進するメカニズムをマウスで確認したと発表した。この研究は、同院消化器内科の岸川孝弘氏(留学中)、大塚基之講師、小池和彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Cancer Research」(Online First)にて発表されている。
画像はリリースより
膵がんは抗がん治療の発展した現在においても予後不良であり、難治がんの代表的存在として知られている。この発がん過程において、単純な塩基配列の繰り返しで構成される「反復配列RNA」と呼ばれるタンパク質情報を持たないRNA(ノンコーディングRNA) が、がんになる前段階から異常に発現していることが明らかになってきた。
研究グループは以前、 マウスの膵臓の良性腫瘍から樹立した細胞を用いて研究を行い、これまで機能を持たないと考えられてきた反復配列RNAの一種であるMajSAT RNAと呼ばれる「サテライト配列由来のRNA」がタンパク質「YBX1」と結合すると、YBX1のもつDNAダメージ修復機能を阻害して、突然変異の蓄積を促進、細胞をがん化させることを見出していた。
Kras遺伝子変異マウスとの交配で前がん病態形成が促進
今回、新たにMajSAT RNAを恒常的に発現するマウスを作製。このマウスで膵臓に炎症を惹起したところ、膵組織内のDNAダメージが増え、さらに膵特異的Kras遺伝子変異マウスとの交配で膵臓の前がん病態の形成が促進されることを確認したという。
これらの結果は、以前に、細胞レベルの検討で見出した、反復配列RNAが「細胞内変異原」として機能し、発がんプロセスを進める重大な働きをしていることを生体でも確認したことになり、発がん機序の解明、発がん予防という観点からも重要な成果だ。研究グループは今後、培養細胞および今回のマウス組織で得られたデータをもとに、ヒトへの応用、特に発がん抑止医療の確立を目指した制御機構の解明を進めていきたい、と述べている。
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