造血幹細胞移植の合併症である移植片対宿主病(GVHD)
北海道大学は5月8日、造血幹細胞移植の合併症である皮膚GVHDにおいて、Lgr5+毛包幹細胞が傷害され減少することを発見し、JAK1/2阻害剤「ルキソリチニブ」外用薬を作成し、病変に塗布したところ、皮膚幹細胞の保護によって毛髪再生や創傷治癒なども改善し、皮膚恒常性が維持されることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の豊嶋教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Blood」に掲載されている。
白血病などの血液悪性腫瘍の治療のために行われる造血幹細胞移植の合併症である移植片対宿主病(GVHD)では、腸管や皮膚、肝臓といったさまざまな臓器が標的となる。近年、豊嶋教授らの研究グループは、腸管GVHDでは組織幹細胞が傷害を受け病状を悪化させることを発見していた。
そこで今回の研究では、GVHDの代表的な標的臓器である皮膚における組織幹細胞の傷害の有無を調べ、組織幹細胞の傷害によってもたらされる皮膚組織への影響を検討。加えて、幹細胞を保護し皮膚恒常性を維持できる新しい治療法の開発も試みたという。
ステロイド外用剤は、Lgr5+毛包幹細胞に毒性示す
研究では、Lgr5+毛包幹細胞を蛍光タンパクにより識別できるように遺伝子を組み換えたマウスを使用して、皮膚幹細胞の評価を行った。このマウスに骨髄移植を行い、移植後の幹細胞の傷害の有無をマウス背部皮膚の免疫染色により評価した。治療法の検討としては、移植後のマウス背部皮膚に外用剤を連日投与し、同様に検討。また、皮膚幹細胞の機能的な評価として、移植後の毛髪の再生と創傷治癒に関する解析を行った。
画像はリリースより
その結果、移植後の皮膚GVHDによりLgr5+毛包幹細胞が傷害されることが判明。Lgr5+毛包幹細胞の減少は移植後の毛髪再生を抑制し、創傷治癒の遅れにも関連することがわかったという。ステロイド外用剤は、免疫抑制作用は強いものの、移植後のLgr5+毛包幹細胞には毒性を示し、皮膚恒常性を保つことはできなかった一方で、JAK1/2阻害剤であるルキソリチニブは皮膚GVHDに対して皮膚幹細胞を保護することができ、毛髪の再生や創傷治癒の改善も得ることができたとしている。
今回の研究成果から、これらの副作用の一部は皮膚幹細胞の傷害と関連している可能性が考えられる。研究グループは「ルキソリチニブ外用剤は皮膚恒常性を保つことのできる局所免疫抑制薬として、皮膚GVHDのみならず、さまざまな炎症性皮膚疾患における臨床応用が可能と考えられる」と述べている。
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・北海道大学 プレスリリース