シャイアーの2017年売上高は151億ドルで、武田の155億ドルとほぼ同規模で、売上収益は約2倍に膨らむ。製薬企業の中では収益性が高く、財務分析指標の一つであるEBITDAは約3倍となる1兆円を超える見通し。
ウェバー氏は、日本企業として過去最大の約7兆円を投じるシャイアーの買収について、「戦略転換ではなく戦略の加速だ」と強調。これまで他社買収を通じて、癌領域を強化し、欧米から新興国市場へとリーチを広げたことによる成果で、間近に控える大型製品の特許切れもなく、業績は成長基調にある。それでもシャイアーの買収へと走らせたのは、世界で戦うための競争力が十分ではないとの判断だ。
他社買収と並行して、事業の戦略と集中を進めてきた。国内での長期収載品や診断薬、呼吸器領域などを他社に譲渡し、主力の循環器領域に見切りをつけ、現在は中枢神経系、消化器、癌に集中。しかし、世界的には20位の製薬企業に甘んじており、集中する疾患領域で世界トップを目指す上で、競争相手が少なく、後発品参入リスクも低い希少疾患薬事業が競争力強化に必要と判断した。シャイアーが販売する希少疾患薬を手中にすることで、中枢神経系や消化器の既存事業も強化でき、統合後は血漿分画製剤を加えた五つの事業領域で売上収益の75%を占める計算だ。
米国を中心としたグローバル化も達成できそうだ。70カ国以上で事業展開を進めてきた武田だが、日本と米国の売上比率が34%と同じ水準だった。米国売上が全体の6割を占めるシャイアーの貢献で、統合会社の地域別売上で米国が48%、日本が19%と海外売上比率は81%まで高まる見通しだ。
さらに、研究開発パイプラインは、武田が第I・II相、シャイアーは第III相が中心であり、前期から後期まで相互補完的な開発パイプラインを構築できる。研究開発費も統合前に比べると約1.5倍の5000億円弱を捻出でき、世界製薬大手と肩を並べる。
一方、買収に必要な資金調達については、JPモルガン・チェース銀行や三井住友銀行、三菱UFJ銀行から308億5000万ドルの融資を受け、株式と現金で調達する。ウェバー氏は、約6兆円に上る有利子負債について、「一時的に債務が増えるが、中期的にはリスクは低下する」と説明。また、統合後も本社機能を東京に維持し、シャイアーの運営についても、「別会社ではなく、完全に統合していく」と述べた。
■日本企業が世界の土俵に
日本企業による約7兆円の大型買収をどう評価するか。LEKコンサルティング日本代表の藤井礼二氏は、「日本の製薬企業の多くはグローバル製薬企業との競争から取り残されており、その差はさらに拡大していく可能性がある。その中で武田はグローバルメガファーマの1社として戦っていくための土俵に上がった」との見方を示す。
08年に買収した米ミレニアムが「癌領域への進出」、11年に買収したスイスのナイコメッドが「新興国の強化」、17年に買収した米アリアド・ファーマシューティカルズが「癌領域の強化」という武田が過去に実施したM&Aを考えると、中枢神経系や消化器、希少疾患領域の強化を目的としたシャイアー買収は「事業戦略にかなっている」とした。
ただ、「ここからが本当の勝負」とも話す。大量新株発行に伴う武田株主の反応や有利子債務が大きいこと、開発の資金繰りなどを懸念点として挙げたほか、「買収後の顧客と優秀な人材の流出を防いでさらなる成長にどうつなげていくか、武田が発表した統合によるコストシナジーの実現可能性でも、リスクは残っている」と分析する。
■ビジョンの方向性に合致-三浦経済課長がコメント
厚生労働省医政局経済課の三浦明課長は、武田薬品のシャイアー買収について、「グローバルメガファーマの一翼を担うような企業が出てきてほしいということは、医薬品産業ビジョンなどでも申し上げてきた」とした上で、「その方向性に合致したもので、歓迎したい」と語った。
武田薬品が希少疾病領域のリーディングカンパニーを手に入れたことで、国内でのオーファンドラッグ開発がより進むことが期待されるが、個々の企業戦略の問題になるため、「踏み込んだコメントはなじまない」としつつも、「国としては、良い薬が国民に早く届くような環境を整えていきたい」と強調。
結果として、「アンメットニーズが満たされ、これまで有効な治療法がなかった領域に対して治療薬が提供されるということが実現されれば大変素晴らしいし、そうなることを期待したい」と述べた。