衛生状態の良い先進国でも制御が困難なノロウイルス
東北大学は4月27日、塩素による消毒処理がノロウイルスに対する淘汰圧として作用することを世界で初めて証明したと発表した。この研究は、同大大学院環境科学研究科の佐野大輔准教授と、同大学大学院工学研究科、北海道大学、愛媛大学、長崎大学、北里大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Applied and Environmental Microbiology」で公開された。
画像はリリースより
コレラや赤痢といった古くからの水系感染症とは異なり、ノロウイルスによる感染症は、衛生状態の良い先進国社会でもほとんど制御不可能だ。これは、ノロウイルスが先進国の社会インフラ整備だけでは制御しがたい生存戦略を有していることに起因すると考えられる。しかし、その具体像は明らかになっていない。
公衆衛生環境が著しく改善している先進諸国で、ノロウイルスが蔓延する理由を明らかにし、より効果的な対抗策を講じることが求められている。
塩素消毒はノロウイルスの淘汰圧となりうる
今回の研究では、試験ウイルスとしてmurine norovirus (MNV)S7-PP3を用い、培養-遊離塩素処理(遊離塩素初期濃度50ppm、反応時間2分)-培養を繰り返すテスト系と、遊離塩素処理を行わずに培養-希釈-培養を繰り返すコントロール系を設定し、それぞれ10回のサイクルを繰り返した。遊離塩素処理に対する感受性をサイクルごとに確認し、1回、5回及び10回サイクル後におけるMNV集団遺伝子構造を、カプシド遺伝子配列の次世代シーケンス結果をもとに分析した。
その結果、塩素消毒処理を施さないコントロール系では、10回のサイクルを通じ遊離塩素処理により感染価が1/10,000に低下し、MNVの遊離塩素への感受性に有意な変化は生じなかったという。それに対しテスト系では、サイクルが進むごとに遊離塩素感受性が低下し、10回目のサイクル後には感染価低下が1/1,000程度に留まったとしている。
また、ノロウイルスの外殻タンパク質遺伝子に関して、次世代シーケンス解析を行い、各領域における一塩基多型(SNPs)を解析した結果、遊離塩素で処理したテスト系の配列にのみ、外殻タンパク質VP2における変異T7280[VP2:F200S]が見出されたという。また、次世代シーケンス解析結果を用いて主座標分析を行った結果、遊離塩素の繰り返し曝露を受けたテスト系のみ、進化方向が近接していることが観察された。これらの結果は、塩素消毒が、ノロウイルスの淘汰圧となりうることを示しているとしている。
ノロウイルスはトイレからの汚水に多く含まれていることから、下水処理場、浄化槽及び集落排水処理施設などで処理水を十分に消毒することで、水を介したノロウイルスの感染を防ぐだけでなく、遺伝的な多様性を低下させて新型の出現確率を下げることが可能だ、と研究グループは述べている。
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