ALSなどで見られる巨大遺伝子の遺伝暗号の読み出し異常
京都大学は5月2日、RNA結合タンパク質「Sfpq」が巨大な遺伝暗号の読み出しを制御するメカニズムを発見し、このメカニズムの異常が神経細胞死と脳の形成異常を引き起こすことも見出したと発表した。この研究は、同大医学研究科の武内章英准教授、飯田慶特定助教、萩原正敏教授らの研究グループが、名古屋大学、東京工業大学と共同で行ったもの。研究成果は「Cell Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
細胞内のDNAに書き込まれた遺伝暗号の読み出しは、下等な動物から哺乳類などの高等動物まで「転写」で制御されている。遺伝暗号は下等動物では数キロベースだが、哺乳類の神経細胞では、100キロまたは1,000キロベースを超えるものがある。
このような非常に長い巨大遺伝子の遺伝暗号の読み出しがどのように行われているのかは、謎のままだった。さらに近年、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や自閉症といった神経難病や精神疾患で、巨大遺伝子の遺伝暗号の読み出しに異常が見つかり、これらの原因不明の疾患の病因の解明と治療法の開発のために、この制御メカニズムの解明が待たれている。
Sfpqが巨大遺伝子の遺伝暗号の読み出しを制御
今回の研究では、ALSおよび自閉症の原因遺伝子として同定された、RNA結合タンパク質「Sfpq」の機能に着目。Sfpqが欠損する遺伝子改変マウスを作成しその機能を調べたところ、Sfpqがなくなると神経の発生を担う重要な分子群が発現できなくなり、脳の形成時期に神経細胞死を引き起こすことがわかった。
さらに、Sfpqの分子機能と神経の発生異常との関連を詳細に調べるため、Sfpqが結合する標的遺伝暗号伝達物質の同定と、Sfpq欠損時の遺伝暗号読み出しの異常について、全ゲノムレベルの網羅的解析を実施。その結果、Sfpqが巨大遺伝子(超長鎖遺伝子)の遺伝暗号の読み出しを制御する重要な分子であることを発見したという。
今回の研究成果について、研究グループは「このメカニズムの異常によって生じる神経難病や精神疾患の一連の原因遺伝子や診断マーカーの同定、疾患の病態と病因の解明や治療法の開発などにつながることが期待される」と述べており、今後も巨大遺伝子の遺伝暗号を読み出すメカニズムの全容解明に向けて、さらに積極的に研究を展開していくとしている。
▼関連リンク
・京都大学 研究成果