長年明らかにされていなかった「皮質脊髄路」の仕組み
新潟大学は5月2日、脳と脊髄を結ぶ「皮質脊髄路」の中に多様な神経回路が存在することを発見し、それらが運動動作をコントロールする神経地図としての働きを示すことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大脳研究所システム脳病態学分野の上野将紀特任教授、米シンシナティ小児病院の吉田富准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Cell Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
大脳皮質と脊髄を結ぶ「皮質脊髄路」と呼ばれる神経回路は、特に、自発的に運動を始めたり、複雑で巧みな運動動作をコントロールしたりするのに重要な神経回路として知られている。この回路は、大脳皮質にある神経細胞が神経の軸索を伝って、脊髄、そして筋肉へと指令を送り、運動をコントロールすると考えられている。この皮質脊髄路の存在は19世紀後半頃には知られていたが、どのような種類の神経細胞が接続して神経回路を形成し、複雑で絶妙な運動動作を生み出すことができるのか、その接続様式や動作原理は明らかにされていなかった。
「神経地図」を神経回路再建の手助けに
研究グループは、げっ歯類であるマウスの皮質脊髄路をモデルとして、遺伝子改変技術や神経トレーサー、電気生理学的解析、神経活動の制御技術、3次元行動解析などの最新の技術を駆使して、皮質脊髄路の詳細な構成と、その動作原理を調査。その結果、運動機能を担う皮質脊髄路の中に、これまで知られていなかった多様な接続を持った神経回路が内在していることを発見した。
それらは回路ごとに存在する場所が異なり、神経回路ごとに多様な性質を持つ神経細胞と結ばれ、それぞれにおいて特異的な遺伝子を発現し、運動や感覚回路との接続様式に相違が見られ、興奮性・抑制性の神経伝達物質の種類が異なっていた。これらの結果から、皮質脊髄路は大脳皮質と脊髄をつなぐ単一で単純な回路ではなく、別々の働きを持った多様な神経回路の集合体として、巧みに運動動作をコントロールしていることが明らかになった。
今回の研究成果は、脳卒中や脳脊髄の損傷など、皮質脊髄路の脱落に伴って運動機能が障害されるさまざまな神経疾患において、どのような回路の再建が必要であるかを「神経地図」として示唆するもの。今後、リハビリテーションや神経回路の再生技術を用いて、今回見いだされた神経回路をどのように再建するのか、その技法の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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