開発が望まれている糖タンパク質に対する分子標的薬
東北大学は4月26日、ヒト口腔がん細胞に高発現する糖タンパク質のポドカリキシンに対して、がんの増殖を抑制する抗体を作製することに成功したと発表した。この研究は、同大未来科学技術共同研究センター/同大学大学院医学系研究科抗体創薬研究分野の加藤幸成教授、同抗体創薬共同研究講座の金子美華准教授、山田慎二助教の研究グループが、微生物化学研究会の川田学部長、大石智一研究員の研究グループ、徳島大学大学院医歯薬学研究部の西岡安彦教授、阿部真治助教の研究グループ、東京医科歯科大学顎口腔外科学の原田浩之教授、板井俊介歯科医師の研究グループと共同で行ったもの。同研究成果は、米科学誌「Oncotarget」に掲載されている。
画像はリリースより
抗体医薬の開発では、創薬の標的となる分子を同定することが極めて重要だが、新規の標的分子の発見および解析は、いまだ非常に困難だ。これまでの標的分子の探索では、生体の膜タンパク質の本体(アミノ酸配列)に焦点が当てられてきた。一方、膜タンパク質のほとんどは多様な糖鎖によって修飾された糖タンパク質であり、糖タンパク質に対する分子標的薬の開発が望まれている。
加藤教授の研究グループではこれまでに、がん細胞のみに反応し、副作用を限りなく低減させた抗体医薬(CasMab:キャスマブ)の開発に複数成功。CasMabは、標的タンパク質の糖鎖とアミノ酸配列の両方を認識することが多く、新しい概念のモノクローナル抗体として開発が進行中である。
ヒト口腔がんマウスで高い治療効果を発揮
今回、研究グループは、糖タンパク質であるポドカリキシンに注目した。ポドカリキシンは細胞の外に大きな領域を持つ膜タンパク質であり、細胞外領域には糖鎖が多く付加されている。ポドカリキシンは、脳腫瘍や大腸がん、乳がん等のがん組織において高い発現が見られ、ポドカリキシンの過剰発現は、患者の病状の進行やがんの転移とも関係があることが報告されていた。しかし、口腔がんではポドカリキシンに関する報告がなかった。
今回の研究では、東北大学が作成したポドカリキシンに対するモノクローナル抗体を改変し、がん細胞で発現しているポドカリキシンに対して反応性を高めた抗体を開発。一般に、抗体はYの字型をしており、分子を特異的に認識する2つの腕の部分と一つの胴体部分を持つ。今回の研究では、抗体の胴体部分におけるタンパク質のアミノ酸配列や糖鎖の修飾部分に対して複数の改変を加えることにより、口腔がんを移植したマウスモデルで高い抗腫瘍効果を示す抗体を作製することに成功したという。
この研究成果により、改変を加えた抗ポドカリキシン抗体が、難治性の口腔がんに対し、より効果的な新たな分子標的薬となる可能性が示唆されたと研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース