肥満が発がん抑制現象に与える影響は不明点が多く
北海道大学は4月25日、肥満が発がんを促進する原因の一端を解明することに成功したと発表した。この研究は、同大遺伝子病制御研究所の藤田恭之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、生物学・医科学の専門誌「Cell Reports」にて掲載された。
研究グループの先行研究により、がんの超初期段階において正常細胞層の中にがんを誘発する変異が生じた際、新たに生じた変異細胞と周囲の正常細胞との間に細胞競合が生じ、その結果、変異細胞が体外へと排出されることが明らかになってきた。しかし、この発がんを抑制する現象が、肥満や老化などの環境要因によって、どのような影響を受けるのかについては不明な点が多かった。
肥満マウス、すい臓・小腸で変異細胞排除が抑制される
今回の研究では、独自に樹立したマウスモデルシステムを用いて、肥満が細胞競合現象にどのような影響を与えるかについて検討。高脂肪食をマウスに与え肥満マウスにした後、がん遺伝子Ras変異をさまざまな上皮組織に誘導して、Ras変異細胞がどのような挙動を取るのかを、すい臓・小腸・肺で観察した。
その結果、普通食を与えたマウスではRas変異細胞が組織から体外へと積極的に排除された。一方肥満マウスでは、肺においては通常マウスと同様に変異細胞が排除されたが、すい臓と小腸においては変異細胞の排除が抑制され、組織に残存することが明らかになったという。とくにすい臓では、1か月後には残存した変異細胞が増殖して小さな腫瘍の塊を形成したとしている。
画像はリリースより
また、肥満マウスでは、正常細胞と変異細胞間の細胞競合が抑制されることで、変異細胞の組織からの排除が弱まることがわかったという。その原因が、肥満による脂肪酸代謝の亢進と慢性炎症であることも判明した。とくに後者については、肥満マウスに抗炎症剤のアスピリンを投与すると、変異細胞の組織からの排除が増加することが示されたという。
これまで、肥満ががんの発生を亢進することは統計学的に示されていたが、その原因はわかっていなかった。今回の研究成果により、肥満によってもたらされる脂肪酸代謝変化と慢性炎症が正常細胞と変異細胞の間に起こる細胞競合現象に影響を与えることが、肥満によるがん発生亢進の原因のひとつである可能性が示された、と研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース