不明だったCOBLL1のがんでの働き
東京都健康長寿医療センターは4月20日、従来治療が効かなくなった前立腺がんにおいてより悪性度の高い神経様形態への変化を引き起こし、男性ホルモンであるアンドロゲンの効果を増強する新たな仕組みを見出したと発表した。この研究は、同センター研究所の井上聡研究部長、高山賢一研究員によるもの。研究成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of USA」(PNAS)に掲載されるのに先立ち、オンライン版で発表されている。
画像はリリースより
前立腺がんは、欧米および日本において、男性が罹患するがん種として最も患者数の多いもののひとつとして、健康長寿を損ねることが大きな課題となっている。進行した前立腺がんでは、男性ホルモンの作用を抑えるホルモン療法を行うが、治療を継続すると薬剤が効かなくなり、再発、難治化して死にいたることが課題となっている。再発においては男性ホルモンの作用が亢進すること、また、より悪性度の高い神経様の細胞の形の変化が知られているが、その仕組みは不明だった。
研究グループは、より悪性度の高いがんへと進行する際の遺伝子レベルでの変化をシステム的に調べるなかで、脳などの神経の発生に関与する既知の遺伝子群の発現が上昇していること、なかでもタンパク質「COBLL1」の発現の増加が顕著であることを発見。COBLL1のがんでの働きは未知だったが、悪性度の高い神経細胞様への変化に関与するという仮説を立てて、その仕組みの解明を目的として研究を実施した。
COBLL1が治療後の再発や生存率を予測する診断マーカーに
まず、ホルモン療法に耐性を獲得した治療抵抗性のモデル細胞を用いてがん細胞内での分子機能を解析。その結果、COBLL1は神経細胞の形態形成においても重要な働きをしているアクチンの重合を促進することで、がん細胞形態を形成する過程に深く関わることを見出した。さらに、細胞の核の中では男性ホルモンのシグナル増強に重要であることを解明。また、手術標本を利用し、COBLL1が治療後の再発や生存率を予測する診断マーカーとなることを発見し、動物モデルにおいてはCOBLL1を抑制することにより、ホルモン療法の効かない難治性の前立腺がんに対して治療効果を示すことも明らかにしたという。
今回の研究によってCOBLL1という新たなタンパク質により前立腺がんがより悪性化される仕組みが解明された。COBLL1によるがんの悪性化や神経様の形の変化の仕組みはこれまで未知であったため、COBLL1を標的とする薬の開発は、従来にない方面からのがん治療薬を生み出す可能性が考えられる、と研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター プレスリリース