悪性中皮腫の生存期間延長という早急な課題
名古屋大学は4月24日、connective tissue growth factor(CTGF)という分泌タンパク質に結合するCTGF特異抗体(FG-3019:pamrevlumab)が、悪性中皮腫の発育を抑制する可能性があることを、動物モデルにより証明したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科生体反応病理学の豊國伸哉教授、大原悠紀大学院生による研究チームが行ったもの。本研究結果は、がん科学誌である「Oncotarget」に掲載されている。
画像はリリースより
悪性中皮腫は、そのほとんどがアスベスト曝露を原因として発症すると考えられている悪性度の高い腫瘍。潜伏期が長いため、日本における中皮腫患者数は2025年にピークをむかえると予測されている。早期診断が難しく、多くの場合は進行した状態で発見される。中皮腫発症後の生存期間(生存中央値)は10か月未満と非常に短い。化学療法には、シスプラチンやペメトレキセドといった抗がん剤が使用されるが、これらの治療薬は平均余命を数か月しか延長できず、新たな治療薬の開発が課題となっている。
FG-3019の中皮腫に対する有効性が判明
2014年に同研究室はCTGFというタンパク質が、中皮腫のがんとしての性質の維持機構に関わっていることを報告。これまでに膵臓がん、メラノーマ、卵巣がん、肺線維症、糖尿病性腎症などでCTGFが高発現することも報告されており、多彩なヒトの疾患の進行に関与していると考えられている。また、膵臓がんと肺線維症では既にCTGFに対する抗体であるFG-3019(pamrevlumab)による治療が臨床治験の第2段階まで進んでいる。
さらに研究チームは、FG-3019の中皮腫に対する効果を検証する実験を、前臨床試験として細胞培養レベル、動物レベルで実施した。その結果、特に動物レベルで、FG-3019は顕著に中皮腫の発育を抑制。顕微鏡で観察すると、FG-3019によって中皮腫細胞やその周囲の細胞(間質細胞)の増殖抑制ならびに細胞死(アポトーシス)誘導が起こっていることがわかった。
今回の研究成果により、FG-3019の中皮腫に対する有効性が前臨床試験で示された。また、治験が進んでいる、膵臓がん、肺線維症に対する治療において、重篤な有害事象は報告されていない。今後、同物質が中皮腫の新たな治療薬として、臨床介入治験が実施されることが期待される、と研究チームは述べている。
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