診療の用に供さない生化学的検査を行う「検体測定室」
筑波大学は4月24日、薬局に開設された検体測定室での指先HbA1cチェックの費用効果分析を行い、糖尿病の早期発見・治療において、検体測定室の持つ高い医療経済的価値を初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科の矢作直也准教授と、同保健医療政策学・医療経済学の近藤正英教授、庄野あい子非常勤講師(明治薬科大学講師)らの共同研究チームによるもの。研究成果は「Diabetes Care」に掲載されている。
画像はリリースより
2017年秋に発表された厚労省国民健康栄養調査の結果によると「糖尿病を強く疑われる人/その可能性を否定できない人」の合計は2000万人に上り、その対策が急務となっている。しかし、糖尿病は初期には自覚症状に乏しいため、重症化してから発見されることも少なくない。
そこで矢作准教授らは、検査へのハードルを下げるべく、薬局やドラッグストアで自己穿刺検査の機会を提供し、近隣医療機関と緊密に連携しながら、糖尿病の早期発見・早期治療へ繋げていく試みとして、2010年から「糖尿病診断アクセス革命」プロジェクトを行ってきた。またその研究成果などを受けて、2014年に厚労省より臨床検査技師法に基づく告示の改正が公布。自ら採取した検体について診療の用に供さない生化学的検査を行う施設が新たに「検体測定室」(ゆびさきセルフ測定室)として認められ、以来、全国各地の薬局で新設が進みつつある。
検体測定室でのHbA1cチェックで増分費用は−5万2,722円
研究チームは、薬局での指先HbA1cチェックによる糖尿病早期発見がもたらす医療経済性について モデル解析を行った。費用効果分析の手法を用いて、特定健診などの健康診査や、 他疾患治療中に受ける診療所などでの随時検査を通してのみHbA1cチェックが可能であった状態と、従来の方法に加えて検体測定室でのHbA1cチェックが可能である状態を比較した。費用対効果の推定には、ディシジョン・ツリーとマルコフモデルを併用。また推定を行うにあたり、東京都足立区において2010年から5年間に渡って10か所の薬局で指先 HbA1cチェックによる糖尿病スクリーニングを行った「糖尿病診断アクセス革命」プロジェクトのデータのうち、2014年集計時点の2,024人分に上るデータを活用した。
その結果、40~74歳の集団一人あたりにおける、検体測定室でのHbA1cチェックの増分費用は、−5万2,722円(費用減)で、質調整生存年(健康状態・生活の質を加味して計算した生存期間)の増分効果(健康寿命の延伸)は、+0.0203QALY(効果増)だった。これにより、検体測定室でのHbA1cチェックができる機会が加わった状態は、従来のスクリーニングのみの場合と比較して、費用削減的であり、検体測定室の普及による将来の医療費の減少が示唆されたとしている。
今回のモデルは、費用としての医療費の計上が主なため、医療費との関連性は高いものの、費用効果分析の費用と医療費とは原則として異なる指標であるため、直接的な換算はでない。その点について、研究チームは、「今後、別途、財政影響分析を行って明らかにしていく」と述べており、「検体測定室が効果的に普及することにより、糖尿病の早期発見が進み、医療費の削減と健康寿命の延伸の双方に役立つことが期待される」としている。
▼関連リンク
・筑波大学 プレスリリース